エモーションテック 編集部
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ブランドアイデンティティとは、企業が定める、ブランドの独自性や特徴を表現する概念のことで、ブランド戦略には欠かせないものです。
本記事では、ブランドアイデンティティを構成する要素から、実際にブランドアイデンティティ構築の代表例をご紹介します。
目次
ブランドアイデンティティとは?
ブランド研究の第一人者であるD.A.アーカー氏は、「ブランドアイデンティティとはブランド戦略を策定する際の長期ビジョンの核になるものであり、ブランドに一体性を与え、マーケティングミックスの方向性と内容を規定するものである」と定義しています。
つまり、ブランドアイデンティティとは、企業が顧客や社会からどのように受け止めてもらいたいか、その姿を現した地図のようなものといえるでしょう。
ブランドアイデンティティの機能としては、大きく次の3つがあります。
まず、ブランドにかかわる施策を考える際や、評価するときのよりどころになるのが1つ目の機能です。ブランドアイデンティティに照らし合わせることで、ブランドにふさわしい行動なのか、そうでないのかが誰でも判断できるようになります。ブランド戦略に対する認識が全社的に統一され、発信するブランドメッセージがブレないものになるのです。
2つ目の機能として、ブランドが顧客にとってわかりやすいものになるというものがあります。ブランドメッセージがわかりやすく伝わることで、顧客に購買を促すという効果が期待できるでしょう。
3つ目の機能に、顧客から見た差別化ポイントを際立たせるというものがあります。競合との違いがより明確になって、優位に立つことが可能です。
ブランドアイデンティティの構成要素
ブランドアイデンティティには、それを構成する要素があります。
阿久津聡、石田茂著『ブランド戦略シナリオ~コンテクスト・ブランディング~』(ダイヤモンド社、2002年)では、ブランドアイデンティティの構成要素として次の4つを挙げています。
ブランドの基盤となる「フィロソフィー」、そのブランドが顧客に提供できる「ベネフィット」、ベネフィットの具体的根拠となる商品の「属性」、そしてそれらを顧客や社会に伝える際の文脈となる「パーソナリティ」の4つがブランドアイデンティティを構成する要素です。この4つの構成要素について具体的に説明します。
フィロソフィー
フィロソフィーとはブランドアイデンティティの根底ともなるブランドの哲学で「ミッション」「価値観」「ビジョン」から構成されます。
「ミッション」はフィロソフィーの核となる要素で、顧客や社会に対してブランドの存在意義を示すものです。「価値観」はブランディングを行う際の行動指針となるもので、マーケティングや広告はもちろん社員の接客なども含め、すべての行動の判断基準となります。
「ビジョン」はミッションを実現するための方向性を示したものです。ビジョンというと、どうしても抽象的なものになりがちですが、ブランディングの施策に落とし込めるように、ある程度具体的であることが求められます。
ベネフィット
ベネフィットとは、企業がブランドを通じて顧客に提供しようとしている価値のことで、「機能ベネフィット」「情緒ベネフィット」「自己表現ベネフィット」の3つがあります。
「機能ベネフィット」は、そのブランドを所有したり利用したりすることで得られる便利さのことで、「〇〇が簡単になる」「時間が短縮される」などの実用的メリットを指します。
「情緒ベネフィット」はそのブランドによって「おもしろい」「楽しい」など顧客に与えることができるプラス感情のことです。たとえばアクセサリーを身に着けると、何か特別な気持ちになるようなものが情緒ベネフィットです。
「自己表現ベネフィット」とは、ブランドを所有したり利用したりすることで顧客が自己表現できることです。たとえば、特定のブランドを身に着けるとスマートな自分を演出できる、成功者感を出せるといったものは代表的な自己表現ベネフィットといえるでしょう。
属性
属性とは主に商品が持っている特性であり、客観的・定量的に示すことができる事実のことです。たとえば、あるプラスチック製品のベネフィットとして「環境に優しい」というメッセージを発信したとしましょう。
しかし、それだけでは、なぜ環境に優しいのかがわかりませんし、信頼性にも欠けてしまいます。
そこで、その商品の属性である「素材に生分解性プラスチックを使用」という客観的事実をプラスすることで、説得力が増し、顧客も安心して納得するのです。
属性はブランドアイデンティティの妥当性を裏付ける根拠・証拠といってよいでしょう。
パーソナリティ
ブランドアイデンティティにおけるパーソナリティとは、ブランドに人間的な特徴を持たせることです。人間であれば誰でも「優しい」「知的」「誠実」といったパーソナリティを持っています。
ブランドにもこのような人間的特徴を持たせれば、意図したとおりにブランドをイメージしてもらいやすくなります。また、ブランドが親しみやすく感情移入しやすいものになるでしょう。
パーソナリティを考える際には、顧客から「こういう人間に思われたい」という人物イメージを明確にすることが大切です。パーソナリティが明確になれば、ブランドメッセージもより分かりやすく、伝わりやすいものとなるでしょう。
ブランドアイデンティティ構築事例:缶コーヒー「BOSS」
ブランドアイデンティティ構築の代表的な事例として缶コーヒーの「BOSS」が挙げられます。
缶コーヒーの市場規模は7000億円と大きく、一人あたり年間100本飲んでいるともいわれています。もはや国民的飲料ともいえる缶コーヒー市場で、ジョージアとトップシェアを争っているのが、ハリウッド俳優であるトミー・リー・ジョーンズを起用した「宇宙人ジョーンズ」のCMでもおなじみのBOSSです。
BOSSを発売する前のサントリーは、「ウェスト」という缶コーヒーブランドを展開していましたが、シェアはわずか4.5%、全体の6位と攻めあぐねていました。
そこで、サントリーでは新たなブランド開発に取りかかり、市場調査を行いました。その結果、缶コーヒーを1日1本以上飲むような典型的なヘビーユーザーは、外回りの営業マンや、タクシーやトラックの運転手、工員、職人に多いことがわかったのです。
さらに、そういったヘビーユーザーは仕事の合間にタバコを吸いながら缶コーヒーを飲むということも判明しました。
当時の缶コーヒーメーカーが目指していたのは、家庭で飲まれるレギュラーコーヒーの味でした。
しかし、肉体を酷使することの多いヘビーユーザーの要求する缶飲料は、甘いもの、炭酸などの刺激があるもの、たばこと相性がいいものであることがわかったのです。
そこで、新しい缶コーヒーの開発コンセプトは、「飲み飽きない」「一日何本でも飲める」「タフで男らしい」缶コーヒーとなりました。
このような経緯で生まれたBOSSは、発売開始2年目の1993年には2400万ケースを販売し、旧ブランドであるウェストの出荷高である1450万ケースを大幅に上回る結果となりました。さらに改良を重ね、現在ではジョージアに並ぶトップブランドに成長したのです。
適切にブランドアイデンティティを構築することで、ブランドメッセージは分かりやすく伝わりやすいものとなります。今回紹介した4つの構成要素をしっかりと検討し、効果のあるブランディングにつなげていきましょう。
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参考:
阿久津聡、石田茂 ダイヤモンド社 『ブランド戦略シナリオ』2002年
田中洋 講談社 『企業価値を高めるブランド戦略』2002年