エモーションテック 編集部
NPS活用やCX向上のためのお役立ち情報を発信しています。
経営戦略と人事戦略の連動が求められるなか、企業は人的資本経営を通じて持続可能な成長を目指しています。
では、人的資本経営において重要なエンゲージメント向上のための効果的な取組み方法とはどのようなものなのでしょうか。
※本セッションはオンデマンド配信をしております。動画視聴をご希望の方は下記ページよりお申し込みください。
https://emotion-tech.co.jp/seminar/2024/eed20240724_ondemand/
<登壇者>
大滝 令嗣氏
株式会社シフト・ビジョン会長、早稲田大学名誉教授、学校法人鉄蕉館顧問、亀田医療大学特任教授、南総学舎学舎長、EmotionTech EX エグゼクティブ・アドバイザー
樋口 知比呂氏
FWD生命保険株式会社 執行役員兼CHRO、博士(人間科学)
永島 寛之氏
トイトイ合同会社 CEO、中央大学 企業研究所 客員研究員、元ニトリ人事責任者
目次
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エンゲージメントから「EXの時代」へ
大滝さま(以下敬称略):人的資本経営の実践とエンゲージメント向上の重要性ということで、3人で打ち合わせをしたところ、話題がいろいろと広がりまして、かなり多岐にわたるかもしれません。
さて、私は人事の業界に40年以上います。40年以上前、東芝に入社したときにオリエンテーションをしてくれたのは「勤労部」という部署でした。そこから人事部と呼ばれるようになり、先進国においては2000年頃からヒューマンキャピタルマネジメント、つまりは人的資本経営の考え方が浸透しはじめました。そこから、徐々に人事は経営のパートナーになり、経営戦略に直結した人事組織戦略を担当する役割を担うようになっています。
世界のトレンドから遅れること24年。「人的資本経営」という言葉が日常の会話に出てくるようになりました。遅れはありますが、ここから先、日本では急速に人をキャピタルとみて投資をして、目的達成のためのリソースではなく、新たな価値をつくる資源としての位置づけをするという時代がはじまり、加速していくのかなと思います。
ヒューマンキャピタルマネジメント(人的資本経営)になる頃から、「エンゲージメント」という言葉が耳に入ってくるようになりました。社員がどれだけ腕まくりしているのか、ということですね。それが、よりその企業の業績に直結したモニタリング指標であると全世界からファクトが出てきました。
これから先はEXの時代になります。人が社会にかかわるうえで、本当の意味の幸福度をあげていく、ウェルビーイング度を測定されてこなければいけないものだと思います。まずはここまで、私から概観をご説明しました。
エンゲージメントの重要性が増す個人・組織・社会の関係の変化
永島さま(以下敬称略):トイトイ合同会社の永島と申します。企業の組織開発と人事支援をしています。そのなかで、CXとEXは社会のなかで一体化しているなと最近は感じています。
社会構成員たる顧客が価値(CX)を実感したときに、個人たる従業員が組織のなかでがんばってよかったと従業員体験価値(EX)を実感するというものが僕の仮説です。
人的資本が何を対象にしているかというと、人そのものではなく、人が持つ 能力、スキル、知識のうち、経営戦略の実現に寄与するものなんです。モノやカネと違い、会社に所有権があるものではありません。その人がもっている能力を企業として成果につながるように活かしていく、そういうことを下支えとなって支援するというのが人的資本経営だと僕は考えています。なので、基本的にはかなりの確率で思い描いたようにはならない前提で考えたほうがいいと思います。
ただ、「収益につながるという宣言」はできると今西さんもおっしゃってらしたことにとても共感します。人も事業も経営者も変化しやすく移ろいやすいですから、あとはそこをどう柔軟につなげていけるのかというところなんだと思います。
「人材版伊藤レポート」を読み解くと、現在地と目指すべき北極星を定めるということが根幹にあることがわかります。そのギャップにアクションを定めることが、価値創造のストーリーだとわかります。
戦略の解像度をあげてアクションをおこし、計測して、また改善にまわす…この流れを事例を交えて伝えているのが伊藤レポートなのかなと。
最後に、変わってきた個人と組織と社会の関係性についてお話しします。
かつては<社会の成長=組織の成長=個人の成長>という信頼感のもと、個人は企業の中で忠誠を尽くすという関係性が成立していました。現代では、個人は企業の中にはおらず、社会の中で企業を相対化しているように思います。なので、企業は場を提供し、人々は自律的な業務を遂行し、それによって成果があがる。ただ、成果があがっても数字だけでは価値の実感はできません。
上司や周囲からのフィードバック、価値に見合った報酬があって、はじめて成長実感が得られる。ここまできてようやくエンゲージメントが生まれてくるんで、最初からエンゲージメントを上げに行くのではなく、こうした要因にそれぞれ手を入れていくことが大事、とこのように捉えています。
従業員を巻き込むエンゲージメント向上の仕組み
樋口さま(以下敬称略):樋口です。職歴としましては、通信会社、人事コンサルティングファームでの人事コンサルタント、銀行、そして3年前からFWD生命保険株式会社の執行役員兼CHROを務めています。今日のテーマのエンゲージメントというのは、実践のなかでやってきたところでもあり、一方ではアカデミックの研究テーマとしても取り組んできたところです。
保険というものは、なかなかとっつきにくかったりもして難しいものですので、よりお客さまにとって簡単に、わかりやすく提供していこうというところをコンセプトにしております。
さきほど大滝先生が話されていたウェルビーイングの考え方でいうと、保険会社はお客さまに生命の安全や健康をお届けするというところを事業としておりまして、「Celebrate Livingー人生を讃えようー」をスローガンとして置いております。
さて、私からは少し実践的なお話しをしたいと思います。
人材・人事データの活用例というなかで、従業員エンゲージメントのスコア向上の取組みの例をご紹介していきます。当社は上場企業ではないので、公表はしておりませんが、従業員エンゲージメントには熱を入れており、前年対比で+24%という大きな変化がございました。
その秘訣の一つとして、従業員エンゲージメントを賞与の会社業績KPIの戦略も目標のうちの一つとして位置づけ、ダイレクトに従業員に反映させているということがあります。
経営者報酬、マネジメント報酬だけでなく、従業員も含めてダイレクトに反映しているので、異論反論を受けることはあるのですが、こうして戦略のKPIをデータでシンプルに示し、社員の意識を向け、全社的な取組みとし、成功を報酬で還元することが大事なのではないかと思っています。
取組みアクションとしては、三つの視点で会社がやらないといけないこと、部門がやるところ、個人レベルでやるところ、その3つの歯車があうのがベストな状態です。「エンゲージメントって人事がやっているやつだよね」という感覚では発展途上で、いかに全社的な取組みとして経営陣、部門長、社員を巻き込むかが大切です。
会社レベルでやっていくところとしては、リソース不足な部門に対してきちんと人員を確保することは基本ですし、ある程度お金を使ってもいいので奨励する機会、表彰する機会を設けていく。
そして、またそれらの取組みを社内SNSなどで何度も畳みかけるように宣伝していく。
もちろん全部の策が当たったとも思っていません。このあたりがサーベイの難しいところだと思います。ただ、フリーコメントはすべて読み込んでなにをするのか戦略的に考えます。
最後、個人レベルのところ、従業員のエンゲージメントサーベイの質問項目でも「同僚から成長をほめられた」「自分のなかでの成長実感」「いい仲間と働ける」といったものがあります。自分ごととして考えていくということが大事であり、いかに従業員を巻き込んでやっていくかが大きなポイントだったと思います。
やはり、施策を何度も何度も繰り返し伝えてやっていくことが、すごく大事です。やっただけではうまくいかないことも改善しながら繰り返していくこと、PDCAサイクルを回し、数字を上げていくこと。そんなことを意識してきました。
人は心で動くから、従業員との対話が重要
大滝:樋口さんにおうかがいしたいのですが、従業員エンゲージメントを賞与にダイレクトに反映させたとおっしゃっていました。個人の賞与を決める際に、人事考課のなかに全社のエンゲージメントスコアを組み込むとなると、社員は自分の賞与をあげるために、意図的に高いスコアをつけることもあるのでしょうか?
樋口:もちろんそういったバイアスもあると想定しています。重視しているのはその同じ環境の中で、昨年対比でどの程度スコアを伸ばせるか、ということです。それに、実際にはその状況でもすごく低く回答する人は一定数でてくるので、エンゲージメントの低い人をいかに少なくするかに取り組んできました。
大滝:こういった施策があると、エンゲージメントが他人事じゃなく、自分たちのものになってきますね。
樋口:なりますね。アクションを起こせば数字はあがります。
永島:そうとう成熟した会社じゃないとKPIには入れられないのでは?
樋口:当社はまだまだ全然成熟してないです。グローバルの点数と比較するとまだまだエンゲージメントが低い状態だと捉えています。
大滝:エンゲージメントがあがれば業績が上がったり、会社が得するというデータはたくさん出てきています。一方で、社員が得するということでいうと、先程賞与の話が出てきましたけど、永島さんはどう考えてますか? エンゲージメントがあがることが、社員自身の成長にもなる…ということでしょうか?
永島:個人は成長実感とエンゲージメントはほぼイコールと思っていて、知識を得て、経済活動をして、その結果社会に貢献したという一括りの流れを感じられているか、かなと思っています。
普通に仕事をしているだけでは、社会貢献だったり自己成長というのは感じづらいですよね。そこでフィードバックが重要だと考えています。
日本では、成果を出して評価を出して終わりという会社がやっぱり多いんですよ。日本人ってフィードバックが苦手ですよね。特に僕たちの世代は苦手です。1on1をやろうとか言われてますけど、きっちりビフォーアフターでどう成長したのかを伝えないといけない。アメリカでマネージャーをしていた時、部下から「フィードバックくれ」と何度も言われた経験があります。今の若い方は、欧米人の感覚と近いのかなと思います。
大滝:樋口さんから見てどう思います?
樋口:フィードバックは従業員エンゲージメントを高めるために重要だと思います。人の生産性って、何で動いているかというとやっぱり感情ですよね。人は感情で動くものだと思います。そうすると、従業員の心にどう火をつけるかという話になる。
言葉の持つ魔力、威力はすごく大事だし、同じことをやるにしても大きな志をもって、大きな目標のためにやっているんだと思えること自体が大事なので、感情をゆさぶるためにフィードバックが大事だし、フィードバックが言葉だけで満足できるのか…というところでうちは賞与を使ったんですね。金銭的報酬を使って従業員の心に火をつけることで、非金銭的なエンゲージメントに対する意識が上がったのは取っ掛かりとしてはよかったと思っています。
大滝:永島さんは、従業員エンゲージメント向上のためには、企業だけではなく社会とのつながりが大事だと考えていらっしゃるということですね?
永島:昔は会社に対するロイヤルティとか言われていましたが、やっぱり今、企業ではなく社会という枠の中で人々が生きていることを認識しないと、誰に対してサービスを提供しているのかがわかりづらくなっちゃうんですよね。会社のなかで上司のため、組織のためとやっているとどんどん成果が小さくなってくるんですよね。
樋口:会社に雇われて、自分のスキルセットがそのなかで労働力としてまわっているというだけじゃなくて、広くは職業という観点で社会につながっています。そうすると、やっぱり会社をやめない前提で強い仕事のプレッシャーをかけて業績をあげることは社員がついてこないんです。力を使って囲い込んでも長く働いてもらうことができない。そういう意味でのエンゲージメントの大事さが注目されているんじゃないかなと思います。
大滝:いろんな会社のエンゲージメントサービスやサーベイを見ていると、「組織の中でどれだけ褒められましたか」というような職場に限定した質問が多いように思います。社会への貢献に関する質問はどのくらいあるんでしょう?
樋口:現状のエンゲージメントサーベイの設計としては、広く会社に対する貢献度を見ていく従業員エンゲージメントと、仕事に焦点を当てたワークエンゲージメントや職場推奨度を表すeNPS℠(Employee Net Promoter Score)を組み合わせているのが一般的には多いですね。そこにウェルビーイングを加えたサーベイをやっている会社も出てきています。
大滝:これからは社会への貢献だとか、社会のなかでの企業の意味みたいなものをしっかり測定していかないといけないですね。従業員の方の意識もそこにあるので。
永島:そうですね、やっぱり人的資本というのは個人のものという点で考えれば。
樋口:若い人は学校でSDGsのことをそうとう学んできているので、新卒採用では社会貢献をしている企業に入りたいという声はよく聞きますね。あとは成長実感。なので、そこのところはやっぱり会社がやっていますよということは大きな宣伝要素であり、人材育成をやっていますというアピールになるんじゃないかと思いますね。
エンゲージメントサーベイには、丁寧なフィードバックとアクションを
大滝:最近、人事だけじゃなくていろいろな社内サービスについて答えないといけないということで、従業員の人たちの「サーベイ疲れ」が出ているんじゃないかという風に感じているんですが、どう思いますか?
永島:ありますね。「疲れ」というより「文句」が出ます。よくあるのは、フィードバックがないことですね。担当者がフィードバックするまでの余裕を持ってない、そりゃサーベイに回答し続けていくだけでは従業員は疲れちゃいますよね。
樋口:エンゲージメントサーベイとストレスチェックの設問は、ちょっと違うものの似通っている部分があるので、調査時期は変えようとしています。ただ、とるべきアクションには関連性があるので、アクションは合わせて行います。エンゲージメントサーベイよりストレスチェックのほうが回答率がいい傾向にありますね。
永島:結果を出しただけで終わることが多いので、行動変容につながるまで丁寧にフィードバックすることが大切ですね。サーベイは鏡なので、使わないで終わったらもったいない。
大滝:そこはこれからの課題ですよね、みなさんが疲れている。
樋口:疲れに対してアクションを起こしてあげないといけませんね。
大滝:一方的に聞くだけじゃなく、ね。
樋口:毎年サーベイをする前に、「今年はこういうことをやりました」という報告をし、実施後にこういうスコア、こういう目立った点があったので、これとこれはやります…というフィードバックはしています。なかには全然刺さらない施策もあります。その場合、それはすっぱり諦めて別の施策をやる。こうしたトライ&エラーが大事だと思います。
永島:回答してもらった結果をどう使うか、ちゃんとだすのが大事ということですね。
樋口:あとは印象に残るようなコメントがあったりするので……誰が回答したのか名前までは特定できない仕組みですけれども、こうしたコメントにも個別対応をしなければいけないなと思いますね。
人的資本経営に必要な価値創造ストーリーとこれから
大滝:人的資本経営をどこからはじめようかとみなさん悩んでいるのではないでしょうか?
樋口:もうはじめている方が多いんじゃないかと思いますが、企業によって人事も経営計画を立てている中のどの段階で、どの程度で入り込んでいるかというところなど、やっぱり企業によって熱量や考え方、かなり温度差があると思いますね。
ただ、人的資本の開示がはじまったインパクトって、投資家に企業の取組みや姿勢を分かってもらえるようなストーリー仕立てが大事になってくるのですが、じゃあストーリーだけきれいだったらそれで納得してもらえるのかというともちろんそうではなくて、エビデンスとなる売上や数値を出して示していかないとなかなか納得してもらえない。
ストーリーとエビデンスとなる数値が合わさって説得力に厚みが出て、納得感につながるのかなと考えています。ちょっときれいに考えすぎですね。
永島:樋口さんとは仲がいい前提でお話ししますと(笑)、こんなにきれいに行くかな?という疑問はやはりあるわけです。確かに、その通りだと思うんですよね。ただ、実際やっぱり開示がない会社、上場していない会社もあり、そこも含めての人的資本経営かなというのがあって。
樋口さんのおっしゃる通り、結局は「現在地と北極星」という二点をどう結ぶかというストーリーをつくるのが人的資本経営だと思っています。でも、現状の姿が見えていない、北極星が定め切れていない解像度が低い状態で、アクションが取りづらい計画になっているというのが結構あります。
なので、ここはもうこの3つだと思います。
「現状がわかっているか?」「先々の北極星が見えているか?」「そこに向けた適切なアクションがあるのか?」
最初は現状を認識すること、北極星との差分を見極めることからストーリーを描いていく。
樋口:そうですね。ただ世界の金融の状況など日々パラダイムシフトがあるので、北極星自体が定まらない、定まっても状況が変わっていくので変えないといけないということが起こります。
大滝:樋口さんのところでやってる新しい取組みについて最後に教えてください。
樋口:デバイスを使っての計測に取り組んでいます。エンゲージメントサーベイというのは主観的な評価で、自分がどう思うかでつけていくものです。生命保険会社である当社では、ストレス状態とか人々の健康状態をデジタル化して評価するヘルスケアのアプリを作っています。
ストレスや健康状態がデジタル化して見える、そういう世界はもう来ているんですね。
生命保険という商材を扱うにあたり、もう取り入れている会社もあります。
ウェルビーイング、ストレスもバロメーターのひとつとして、「サーベイで測る」から「バイタルで計測していく」という時代がもうすぐそこまで来ているんじゃないかと思います。
大滝:楽しみといえば楽しみだけど、怖いといえば怖い時代がきてますね。
永島:いろんな言葉があり、それぞれ「それらしい」意味があります。どれも、「ある状況」を切り取ってあらわした言葉なので、自分なりにこれをどう使っていくのかは明確にしていかないといけないなと思います。いらないものをはじめたり、使い方を間違えたりすることもありますし、やはりこういう場で議論しながら持論を形成していくのが大事だなと思います。
今日はありがとうございました。
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