CX導入に役立つ手法7選:顧客体験(CX)を強化する具体的ステップ
更新日:2025.02.20


梅川 啓
株式会社エモーションテック Marketing Manager
複数企業の事業責任者を歴任したのち、2020年よりエモーションテックにCXコンサルタントとして参画。製薬会社や金融機関、化粧品メーカーのNPSプロジェクトやCXマネジメントの支援に携わる。2022年よりマーケティングに従事し、各種セミナーやイベントに登壇。
顧客のブランド体験全体を見直し、価値ある接点を提供していく「カスタマーエクスペリエンス(CX)」。消費者の選択肢や情報量が増加し、製品や価格の差別化だけでは勝ち残りが難しくなる中で、顧客との長期的な信頼関係を築くためにCXを意識した企業戦略が注目を集めています。

本記事では、CX導入を検討している企業が活用しやすい「7つの手法」をまとめました。どのように顧客理解を深め、どのように施策を具体化し、さらにPDCAを回していけばいいのか、ポイントを押さえて解説しています。自社のビジネス環境や顧客ニーズに合わせて、ぜひ取り入れてみてください。
目次
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1. カスタマージャーニーマップの作成
顧客がブランドや製品・サービスを知り、購入し、アフターサポートを受けるまでの一連の流れを可視化したものが「カスタマージャーニーマップ」です。タッチポイントごとに顧客が感じる期待・不満・感情などを整理することで、どこに課題や改善余地があるのかを全体像で捉えられます。
- 顧客視点で各プロセスを追うので、企業都合では見えない問題点を発見しやすい
- 部署をまたいで情報共有することで、内部のサイロ化を解消しやすくなる
- 改善施策の優先度をつけやすく、投資対効果を測定しやすい
ジャーニーマップはホワイトボードやデジタルツール(Service Design Tools、Lucidchartなど)を使い、ワークショップ形式で作ると社内の理解や参加意識が高まります。
下記は当社で作成した「マルチビタミンをインターネットで販売する」ことを想定したカスタマージャーニーマップのサンプルです。
無関心 → | 興味・関心 → | 情報収集 → | 比較・検討 → | 購入 → | 継続利用 | |
---|---|---|---|---|---|---|
考えていること | ・サプリや健康管理に興味がない ・自分にはまだ必要ないと思っている | ・健康や栄養に興味が出始める ・マルチビタミンの話を耳にして気になり始める | ・マルチビタミンに関する詳しい情報を知りたい ・他のサプリと何が違うのかを知りたい | ・他社製品との価格や成分、口コミを比較 ・自分の悩みに合うかを検討 ・購入先(公式サイトやECモール)の選定 | ・実際に商品を注文する ・最終的な購入先を決定する | ・効果を感じられるか様子を見る ・次回も同じ商品を買うか検討 ・リピート購入の手間や割引などを考慮 |
顧客との接点 | ・SNSやニュースサイトのディスプレイ広告 ・友人や家族との雑談でサプリの話題が出る | ・SNS投稿、ブログ記事、YouTube 広告 ・オウンドメディアの記事 | ・Google検索や比較サイト ・専門メディアやブログ ・公式サイトの製品LP | ・公式サイトの製品ページ ・口コミサイト、価格比較サイト ・Amazon、楽天などのECモールレビュー | ・ECサイトの購入ページ ・公式オンラインストア ・(実店舗がある場合)店頭のPOPやパンフレット | ・購入後のフォローメール ・定期購入プランやSNSコミュニティ ・チャットボットや電話サポート |
心理的バリア | ・サプリを飲む習慣がない ・自分に関係ないと思い込んでいる | ・高額そう、面倒そう ・自分に合うかどうか不安 | ・ネット上の情報が多すぎて混乱 ・サプリの信頼性が曖昧 | ・粗悪品や過剰広告を警戒 ・コストに見合うか不安 | ・購入後のサポートへの不安 ・配送や決済方法の不安 | ・効果が実感できない場合の不満 ・飲み忘れなど続かないリスク ・リピート時の割引がないと継続意欲が下がる |
施策 | ・SNSやバナー広告で「健康を意識するきっかけ」を訴求 ・ライトな健康メリットを分かりやすく伝える | ・マルチビタミンの基本効果を説明するコンテンツの拡充 ・健康・美容系インフルエンサーとのタイアップで興味を引く | ・科学的エビデンスや専門家の意見を盛り込む ・各成分の効能やメリットを分かりやすく解説 ・無料ガイドやFAQで疑問を解消 | ・他社商品との比較表や動画で視覚的に違いを説明 ・口コミ・体験談の充実 ・定期購入プランの価格メリットを強調 | ・初回限定クーポンや送料無料特典 ・ワンクリック購入などスムーズな購入導線 ・チャットサポートで購入を後押し | ・リマインドメールや正しい飲み方のステップメール ・定期購入割引やポイント付与の特典 ・長期的なアフターフォローで満足度を維持 |
期待する リアクション | ・サプリに対する認識が生まれる ・自分にも関係あるかもしれないと思い始める | ・もっと詳しく調べようと思う ・公式サイトやSNSをフォローする | ・疑問点が解消される ・比較・検討に進むモチベーションが高まる | ・信頼できるブランドだと認識 ・価格や成分を総合的に判断して購入決定 | ・不安なく購入できる ・手元に届く商品を楽しみにする | ・効果と利便性を実感し継続意欲UP ・定期購入やリピート購入を前向きに検討 |
2. 顧客ペルソナの明確化
サービスを利用する代表的な顧客像(ペルソナ)を具体的に設定すると、ユーザー視点で企画や施策を立てやすくなります。例えば、
- 年齢や職業、家族構成などのプロフィール
- ライフスタイル、日々の行動パターン
- 価値観や課題・悩み、購買動機
などを想定し、「この顧客ならどこで情報収集し、どのような場面で商品を購入するか」を具体的にイメージすることで、カスタマージャーニーとの整合性も高まり、より的確なCX施策の立案が可能になります。
下記は当社で作成した「マルチビタミンを求める顧客ペルソナ」のサンプルです。
![]() | 名前・年齢 | 佐藤 彩花(27歳) |
---|---|---|
居住地 | 東京都内在住(通勤1時間程度) | |
職業 | 人材系企業の営業職 | |
勤務年数 | 入社3年目 | |
年収 | 400〜450万円程度 | |
家族構成 | 独身/実家は関西(両親と弟1人) | |
周囲との交流 | ・会社の同期や大学友人との飲み会が多い ・クライアント接待で週2〜3回は外食 | |
ライフスタイル | ・平日は営業活動で忙しく、帰宅が遅いことが多い ・週末はヨガやランニングでリフレッシュ ・外食・コンビニ頼りで栄養不足を感じている | |
ライフイベント | ・大学で経営学を専攻、サークルはスポーツ系 ・結婚・出産を視野に入れながらもキャリア継続を希望 | |
消費傾向 | ・健康や美容への投資を惜しまない ・SNSやECサイトの口コミを熟読し、ブランド・成分を比較 ・気になるサプリやコスメをよく試す | |
マルチビタミンを 求める理由 | 手軽に栄養補給: 外食が続く中、ビタミン不足を補いたい 美容・健康意識: 肌荒れや疲労回復を意識し、品質を重視 将来への備え: 結婚・出産を見据え、今から体調管理をしたい | |
購入行動の流れ | 1. 「疲れ」「肌荒れ」「ビタミン不足」でSNS・検索する 2. 口コミサイト・ECで複数のマルチビタミンを比較検討 3. 購入後、効果を実感すれば定期購入を検討 4. 実感できなければ別ブランドに切り替え |
3. VOC(Voice of Customer)プログラムの活用
CX向上には顧客の声(Voice of Customer)を継続的に収集・分析し、社内に還元する仕組みづくりが欠かせません。アンケート、SNSの投稿、コールセンターへの問い合わせなど、さまざまなチャネルに散在する顧客の声を、
- テキストマイニングで頻出キーワードを抽出
- 共感や不満の要素を分析し、サービス改善へ反映
- NPSやCSATなど数値指標との紐付け
などの手法を組み合わせ、社内の各部署に共有することで意思決定のスピードが上がり、顧客のリアルなニーズを逃しにくくなります。
4. マルチチャネル / オムニチャネル戦略
店舗、ECサイト、SNS、カスタマーサポートなど複数チャネルを統合し、顧客がどの接点でも一貫した体験を得られるようにする「マルチチャネル(またはオムニチャネル)戦略」もCXを高めるうえで重要です。
- 顧客データを一元管理し、購入履歴や問い合わせ履歴をどのチャネルでも参照できる
- オンラインとオフラインをシームレスに接続し、ECで見た商品を店舗で試すなどの行動をスムーズにサポート
- チャットボットやメールマガジン、SNSなどを連携してパーソナライズされた情報提供を実現
こうした取り組みによって、顧客はストレスなくブランドに接触でき、結果として満足度やロイヤルティが向上します。
5. デザイン思考とサービスデザイン手法
デザイン思考(Design Thinking)やサービスデザインでは、ユーザーファーストの発想で新サービスや機能を考案します。具体的には、
- リサーチ:ユーザーや市場を調査し、潜在的なニーズを発見
- アイデア創出:ブレインストーミングなどで多数の解決策を提案
- プロトタイプ:アイデアを形にして試作し、迅速にテスト
- フィードバック:ユーザーに評価してもらい、反復改善
というプロセスを繰り返しながら、顧客にとって魅力的かつ機能的な体験を設計していきます。これらの手法を取り入れると、CX向上に直結するアイデアが生まれやすくなるのが特徴です。
6. エンゲージメント指標(NPS / CSAT / CES)の定期測定
CXを数値化して把握し、改善サイクルを回すために導入されるのが、顧客満足度やロイヤルティを測る各種指標です。代表的なものとして、
- NPS(Net Promoter Score):推奨意向からロイヤルティを測定
- CSAT(Customer Satisfaction):顧客満足度をシンプルに測定
- CES(Customer Effort Score):顧客が問題解決に要した負担を測定
これらの指標を月次や四半期でトラッキングし、顧客の声(VOC)を補足的に調べることで、どの施策が効果を発揮しているのかを客観的に評価できます。
7. カスタマーサクセスチームの設置
SaaS業界などで広まりつつあるカスタマーサクセスの考え方は、顧客がサービスを使って成功を収めることをゴールに置き、プロアクティブにサポートを行う手法です。
- 導入初期のオンボーディングを強化し、スムーズな立ち上げを支援
- 利用データをモニタリングし、顧客が潜在的に抱える課題を先回りで解決
- 定期的なコミュニケーションでアップセルや新機能提案を行い、価値の最大化を図る
この取り組みによって顧客体験が向上し、継続率やLTV(ライフタイムバリュー)もアップ。今では多くの企業がCX強化策としてカスタマーサクセスチームの導入を進めています。
まとめ:CXを軸に顧客との絆を強化しよう
CX導入は、単なる顧客満足度の向上にとどまらず、リピート購入やブランドロイヤルティの向上、差別化要素の確立など多くの恩恵をもたらします。カスタマージャーニーマップの作成や顧客ペルソナの設定、VOCプログラムによる顧客の声の吸い上げなど、様々な手法を組み合わせることで、より最適な顧客体験を設計しやすくなります。
また、オムニチャネル戦略やカスタマーサクセスなどの施策を取り入れ、数値化された指標(NPS・CSATなど)で効果を測定し、継続的に改善していくことが大切です。顧客の目線に立ち、積極的にフィードバックを活かす姿勢を社内に根づかせることで、企業と顧客の長期的な信頼関係を築くCXを実現できるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. CX(カスタマーエクスペリエンス)と顧客満足度(CS)は同じ意味ですか?
A. CXは顧客が商品・サービスに触れるすべての体験を指し、CSはその体験に対する「満足度」を示します。CSはCXの一部を数値化した概念ともいえます。企業としては、CXを総合的に整えつつ、CSを定期的に測定して改善していくことが大切です。
Q2. カスタマージャーニーマップを作る際の注意点は何ですか?
A. 顧客視点を徹底することがポイントです。社内の思い込みだけで作らず、実際の顧客インタビューやアンケート結果、データ分析などを活用してリアリティを持たせましょう。また、完成後も定期的にアップデートしていく必要があります。
Q3. CX導入にはどれくらいのコストがかかりますか?
A. 業種や規模、導入範囲によって大きく異なります。小規模のVOC収集やカスタマージャーニーマップ作成であれば比較的低コストで始められますが、オムニチャネル戦略やカスタマーサクセス部門の新設などは、システム導入や人件費も含めて一定の投資が必要になります。まずは小さな施策から試行する企業が多いです。
Q4. NPSやCSATなどの指標はどのくらいの頻度で測定すればよいでしょうか?
A. 一般的には月次や四半期ごとに測定して、推移を追跡する企業が多いです。大きなアップデートやキャンペーンを実施した直後にアンケートを行い、施策の効果を検証するケースもあります。重要なのは継続して測定し、改善サイクルに反映させることです。
Q5. CX施策を成功させるために社内で意識すべきことは何ですか?
A. 部署間の連携と経営トップのコミットメントが不可欠です。顧客とのあらゆる接点を統合的に改善するには、営業、マーケティング、サポートなど複数部署が横断的に協力し、顧客視点で意思決定を行う必要があります。また、トップがCX強化を経営課題として明確に示すことで、組織全体の動きが加速します。
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