

エモーションテック 編集部
NPS活用やCX向上のためのお役立ち情報を発信しています。
目次
NPS®の計算方法
NPSとは「ネット・プロモーター・スコア」の略称であり、「親しい知人や友人にこのサービス・製品をどのくらい薦めたいか?」を尋ねて、顧客ロイヤルティを数値化する指標です。
たった一つのシンプルな質問ですが、企業の収益性や成長率との相関が高く、ビジネスの状況を測るベンチマークとしてアップルなど世界中の企業が導入しています。
NPSは0点~10点の11段階で推奨度を評価してもらい、0点~6点を「批判者」、9点と10点を「推奨者」と分類し、全体の「推奨者」の割合から「批判者」の割合を引いて計算します。
なぜ日本におけるNPS調査はマイナスに出やすいのか?
日本でも近年、導入する企業が増加していると言われています。一般にNPSが高いほど経営状況が優れていると思われるかもしれませんが、日本では実際に導入した企業から「NPSの調査結果マイナスに出る」という声をよく耳にします。実際にSatmetrixというアメリカの企業が公表している調査¹では、「日本の顧客は他国に比べ、最も満足度やロイヤルティの点数を低く付ける傾向にあった」と報告があります。
また、アメリカのコンサルティング会社のTemkin Groupが公表している2018年度の業界別のNPSベンチマーク調査²では、平均がマイナスになっている業界が一つもないのに対し、弊社が過去に行った様々な業界における調査では日本国内の多くの企業でNPSがマイナスになるケースが確認されています。
「マイナスのスコアが出ているのだからサービスや製品に重大な欠陥があるに違いない!」と思われる方もいるかもしれませんが、そうではありません。実は日本においてNPSが低く出やすいのは日本の国民性が大きく影響しているからなのです。
『ネットプロモーター経営』の著者であるベイン・アンド・カンパニーのロブ・マーキー氏も「UKでは他国に比べてNPSが低く出る傾向にあるのではないか」という質問に対して、「市場環境や競合の状況は国ごとに違うので、その影響が大きく文化的要因によるNPSが低く出やすいというのはあまりない」と述べ³、地域的な影響を否定しましたが、マーキー氏は「日本だけは文化的な要因がNPSを押し下げている傾向がある数少ない国である」と付け加えています。
日本人特有の回答中心化傾向
日本においてNPSが低く出る原因の一つとして、日本人の「回答中心化傾向」が考えられます。「回答中心化傾向」とは、例えば5段階で評価を行う場合、そのちょうど真ん中である3の評価をつけやすいことを表します。ある出来事についてどれくらい合意できるかを尋ねるリッカード尺度を使用した調査において文化的バイアスが生じることは1990年ごろから多くの研究で指摘されてきました。
例えば、南カリフォルニア州のスーパーマーケットにおいて、日本人と中国人とアメリカ人に対して自身の健康について4択、5択、7択でアンケートを行ったところ、ポジティブに感じているかを問われた質問についてはアメリカ人に比べて高い点数をつけずに中間点を回答する可能性が高いことが示されています。
つまり、日本人は高い評価をつけることを避ける傾向があるのです。研究内では日本は集団主義的な性質があり、「出る杭は打たれる」というように集団での合意を取りにくくする極端な意見表明を避ける傾向があることが原因ではないかと分析されています。
ハイコンテクストかつネガティブフィードバックを避けるコミュニケーション文化
この日本人特有の性質は世界中の国々との比較においても明確です。INSEAD客員教授のエリン・メイヤー氏が執筆した『異文化理解力』という書籍では、日本は「最もハイコンテクストかつ最も間接的なネガティブ・フィードバックを行う国」として認識されています。
ハイコンテクスト・ローコンテクストとは、簡単に言えば思っていることを率直に伝える文化かどうかという意味で、ハイコンテクストとされる文化圏では、短く簡潔で率直なメッセージはあまり好まれません。メッセージをぼかしながら伝えたり、集団の前ではなく一対一で賞賛や注意を行ったりするのがハイコンテクスト文化の特徴です。
つまり日本人は、他人とのコミュニケーションで評価を伝える際、一般的に思っていることをストレートに表現したり批判的な意見を言ったりすることが苦手であり、この傾向が回答の中心化傾向につながっているのではないかと考えられます。
上述の通り、NPSを算出する際はおすすめ度合いを0〜11の11段階で評価し、0〜6点までを「批判者」に分類します。そのため、もともと回答が中心によりやすい傾向にある日本では批判者に分類される4~6点に回答が集まりNPSが低く出やすい傾向にあります。
NPSは絶対値ではなく競合との相対比較や時系列での推移を追う
顧客体験を改善する上で、NPSがマイナスに出ること自体は全く気にする必要はありません。スコアの絶対値にはあまり意味がないからです。
NPSは同じ市場で競合する他社との比較に使ったり、時系列で見て自社の顧客体験向上を目指す施策などが機能しているかどうかを測ったりする際に力を発揮します。
他社比較と継続的な計測を通して顧客が抱える見えない声に向き合い続けることが何よりも重要です。
NPS®解説資料ダウンロード
¹”Satmetrix Reveals Findings on Cultural Differences in Customer Loyalty Surveys and Net Promoter® Scores”,Business Wire,Feb 2007
²”Net Promoter Score Benchmark Study, 2018″,Temkin Group,Oct 2018
3Rob Markey,”Does the UK tend to score lower in consumer product net promoter scores (NPS)?,”Quora,Oct 2012
よくある質問
NPSがマイナスでも気にしなくてよいのはなぜ?
NPSは“絶対値”ではなく、競合との相対比較や時系列での推移を見ることで価値を発揮します。日本市場では文化的要因で低スコアになりやすいため、マイナスでも異常ではありません。自社の改善施策がスコアやコメントにどう反映されたかを継続モニタリングすることが重要です。
日本でNPSが低く出やすい主な理由は?
日本人はリッカート尺度などで中間値を選びがちな“回答中心化傾向”が強く、さらにハイコンテクスト文化の影響でポジティブ・ネガティブをストレートに表現しにくい傾向があります。その結果、0〜6点に回答が集中しやすく、NPSが低く算出されるケースが多いのです。
業界ベンチマークと比較する際の注意点は?
必ず同一業界・同一国のデータと比較し、調査手法(質問文・回収チャネル・タイミング)が近いかを確認します。また、文化差を補正するために、日本企業同士での相対順位や前年同期比を重視すると、実態を見誤りにくくなります。
0〜6点がすべて“批判者”に分類される理由は?
創始者フレッド・ライクヘルド氏の研究で、推奨者(9・10点)とそれ以外ではリピート購入率・紹介率に大きな断絶があると判明しました。7・8点は“中立”、6点以下は推奨行動が見込めず離反リスクもあるため、一括して批判者グループとして差し引く設計になっています。
アンケートで極端値を引き出すための工夫は?
①質問文に「0=全く薦めない/10=ぜひ薦めたい」と両端の意味を明示する、②メールやアプリ内で直後に1クリック回答できる導線を用意する、③フォロー質問で「理由を教えてください」と自由記述を促し、回答の真剣度を高める──これらを組み合わせると9・10点や0・1点などの極端値が出やすくなり、分析精度が向上します。