【セミナーレポート】ロイヤルカスタマーを軸とした、 営業戦略とは | 株式会社エモーションテック

【セミナーレポート】ロイヤルカスタマーを軸とした、 営業戦略とは

更新日:2024.07.26

このコラムの執筆者
須藤 勇人

2015年よりエモーションテックに参画。マーケティング部門の責任者を経て、2018年からはEX事業領域責任者として、企業のEX(従業員体験)向上支援サービスを開発し、企業の従業員エンゲージメント向上を推進。「実践的カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント」著者。

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CXに取り組むことになった背景

損害保険事業「代理店型」ビジネスモデル

神山氏:
三井住友海上の神山貴弘と申します。

現在は経営企画部CXマーケティングチームに所属をしておりますが、それ以前は企業営業部と言われる総合営業第一部に所属しており、従業員数の規模でいうと10数万といった規模感の大手企業を担当しておりました。

私が担当していたこの企業では、従業員向けに福利厚生制度が提供されており、その中の自動車保険や傷害保険、それから医療保険といったものに携わらせていただいておりました。

神山様の自己紹介

2020年以降、デジタル戦略募集の構築やロイヤルティ調査を含め、DXやCXの取り組みを推進するにあたって、特にCX領域でエモーションテック社と一緒に取り組んでおります。

弊社はお客様に保険商品をご提供しているのですが、弊社とお客様の間に保険代理店さんがいらっしゃいます。弊社は保険代理店さんに保険商品を提供し、代理店さんがお客様に保険商品を販売するという仕組みになっています。保険商品を直接お客様に販売する、いわゆるダイレクト損保とは異なる点をご理解いただければと思います。

三井住友火災保険のビジネスモデル

今回、CX改善の取り組みを行ったのは、ある大手企業に所属する数十万人規模の従業員の皆様に向けた、保険商品の販売です。保険代理店さんもこの大手企業内に所属している企業内代理店という位置づけです。

大手企業の営業担当として感じた、新規顧客獲得の難しさ

当時、私はこの企業の営業担当という位置づけで、CXの取り組みに関しても、代理店さんやクライアントである企業に対してCXの重要性を説明・説得し、実行に移していく立場にありました。

今回、CXに取り組むきっかけとなったのは、大きく分けて内部環境と外部環境二つの側面があります。

まず一つ目の内部環境については、自社のマーケット環境の変化があります。

これまで代理店さんと共同しながら、新規契約獲得数をKPIとして設定してまいりました。施策によって加入率が高まっていく一方で、従業員の全体数はそれほど増えていくわけではないため、徐々に新規獲得が難しくなってきました。

そのため、他に目標を設定する必要があるのではないかと考えるようになりました。

外部環境については2つあります。

一つはお客様との接点の変化です。デジタル浸透社会により、オフラインの行動がオンラインに繋がり、生活がデジタル化してきていることは皆さんも実感されているとおりだと思います。

損害保険事業も同様に、従来であれば紙のパンフレットをお客様にお渡しをして、面談をして契約手続きを行っていくのが当然でした。しかしコロナ禍を経た今では在宅勤務が当たり前になり、お客様とリアルな場で接点を持つことが難しくなってきました。そうすると、認知を獲得して、興味関心を惹きつけて契約を獲得することが難しくなってきました

もう一つは人口減少社会という観点です。最新の調査※1でも11年連続の人口減少が続いており、減少幅も1950年以降過去最大になっています。ある統計によると、2060年には現在の2/3まで人口が減少するとも言われています。加えて、生産年齢人口(働き手と言われる15歳から64歳)の割合も59.4%とこちらも過去最低になっています。

これからは、今までのように見込み客がたくさんいて、新規顧客を取り続ける環境ではなくなってきているのが見てとれると思います。

こうした外部環境と内部環境の変化を踏まえて、私達が社内や代理店に最初に提言したのは、環境変化を踏まえた全体最適の新たな戦略・戦術の必要性があるのではないか、ということです。これからの事業において太い幹のような、新しい戦略を編みだすことが重要だと感じていました。
※1:総務省人口統計(2021年10月1日現在)参照

CXへの取り組み方

新しい戦略に選んだのは、カスタマージャーニーとNPS(ネット・プロモーター・スコア)®

では何をテーマに新しい戦略を立てていくか、ということで2つ選定しました。

それが、カスタマージャーニーNPSです。

カスタマージャーニーというのは、サービスの利用をお客様の旅に見立てていて、お客様が商品やサービスを実際に購入して、その後どうだったかという一連の流れを図式化したものをカスタマージャーニーマップと呼びます。

保険も同様に、認知・情報収集・比較検討・申し込み、その後も保険の変更・問い合わせ相談・保険金請求など、それぞれ重要なタッチポイントがあるのですが、こうした体験を面として捉えていく必要性があると認識しています。

カスタマージャーニーマップとは

当時の私達はまだお客様の理解が粗い状態でした。お客様がどのように認知されて、比較検討を行い、お申し込みいただいているのかについて、よくわかっていない状態だと考えていました。

過去の知識や経験・勘に基づく従来型の戦略となっていては、有効なソリューションを打ち出すことができません。カスタマージャーニーを用いることで、顧客解像度をクリアにし、データと分析に裏付けられた、いわゆるデータドリブンな状態に置き換えることができるのではないかと考えました。そうして初めて有効なDX戦略を打ち出すことができ、ひいてはCX向上を促していくことにつながっていくと思います。

CJMで顧客解像度を高める

もう一つがNPSです。NPSに目を向けたのはロイヤルカスタマーの重要性を感じていたからです。

ロイヤルカスタマーとは、企業に対して信頼感を抱き、継続的に関係性を維持し、企業に変わって他の顧客への宣伝役を果たしてくれる顧客のことで、要するに熱狂的なファンであるということです。

私自身が営業担当をしている中の反省でもあるのですが、当時は新規で加入されたお客様、過去に加入されたお客様、まだ加入されていない方、の3つぐらいでしか顧客をセグメント(分類)できていませんでした。

ただ、市場が縮小していく中でそれでは限界があり、既存の中でロイヤルティの高いお客様をしっかりとセグメントして増やしていく重要性を認識しました。そしてこのロイヤルカスタマーを調べ、増やしてくための指標になるのがNPSだと考えました。

関連記事:
NPS®とは?顧客満足度との違い・質問方法・事例まで詳しく解説!

事業の持続的な成長を目指す上で、NPSを目標(KGI)に設定

NPSを使うことのメリット、得られる果実についてもご紹介したいと思います。

私も本日視聴いただいている皆様も、目指しているゴールは「事業の持続的な成長」だと思います。そしてそのための目標・KGIは売上などに設定されると思いますが、ここにNPSを置けるのかな、と考えています。

KGIにNPSを採用するイメージ

目標をブレイクダウンしたKPI(重要指標)は、これまで新規顧客の獲得数のみが置かれていましたが、NPSを目標に据えることで、NPSと相関関係にある取り組みをKPIとして設定することができます。

例えば、弊社の場合はオプション追加や、複数商品を購入していただくとNPSが上がっていくということがわかってきました。オプションの商品の中には商品単価が低い、月額10円とか20円とかの商品もありますが、こうした商品もNPS向上に有効である、つまり継続率や継続期間の改善にもつながっていくということがわかり、そうした商品の価値を再定義することができました。

そして、このようにNPSに影響のある取り組みがわかってくると、「パンフレットはこうしよう」とか「メールの案内はこうしていこう」、「ランディングページはこう構成しよう」というようにブレイクダウンしていくことができます。

実際に私達の取り組みにおいても、長年新規契約獲得が主軸に置かれていたのですが、現在はNPSに関係があるものをKPIとして設定し、それが成果につながってきています

CX向上におけるNPSデータの活用法

既存顧客のロイヤルティ戦略に意識を統一させる方法とは?

須藤:
貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

既存顧客に向き合うことになった経緯ということで、今まさにお伺いしたところなのですが、「新規顧客の獲得」というのが長年重要視されてきたところから、「既存顧客のロイヤルカスタマー化」という戦略にスムーズに切り替えられたのでしょうか?

神山氏:
そうですね、新規顧客獲得がなかなか伸び悩んでいる事自体は、社内にしても代理店においても共通の認識を共有出来ていました。

それに代わる対策として特約オプションを増やす取り組みや、被保険者数(ご加入されているお客様の数)を増やしていくということも検討していたのですが、データに裏付けられた答えではなかったため、なかなか踏み切ることができませんでした。

そこで、まずエモーションテック社と一緒にNPS調査を行った結果、NPSの指標としての信頼性を確認するとともに既存のお客様をロイヤルカスタマー化していくことの可能性をデータによって可視化・説明することができたため、社内と代理店で方針について合意することができました。

須藤:
まさにそうしたデータ分析のところについても、お話をお伺いしていきたいなと思っております。NPSと収益との関係性については、どのような検証をしましたか?

神山氏:
私自身はNPSの重要性を社内や代理店さんに対して説明する立場だったこともあり、NPSと収益との関係性がどうなるかは当時とてもドキドキしていました。

実際の数値はお出しすることができないのですが、結果としては収益との明確な関係性を検証することができました。

NPSと収益の相関を検証


※上記画像は、実際のデータ分析の結果ではなく、イメージです。

このイメージ図にあるように、NPSが伸びていくにあたって保険料も伸びていくという、正の相関関係にあることがわかりました。加えて、被保険者数やオプション数もかなり綺麗に相関関係がみられたので、「NPSってやっぱり信頼のある指標だよね」というのも、共通認識を持つことができました。

須藤:
弊社が保険企業のNPS調査を行う場合、よくこうした契約期間や単価について収益検証を行います。推奨度が「1」上がることで、どのくらい収益改善が見込めるかを分析することで、NPSを伸ばしていく意義が理解しやすくなりますよね。

顧客の解像度を高めるための、データ分析について

須藤:
その他データ分析において、注意したポイントなどあればお伺いしたいです。

神山氏:
実は最初に作成されたレポートでは、あまり顧客の解像度が高まりきっていませんでした。調査結果からは、何をどうすればよいのかが読み解きづらい状態だったのですが、そこから何度もエモーションテック社とやりとりさせてもらい、結果的には「顧客をある条件でセグメントして分析する」という示唆を得ることができました。

お客様の申込経路は大きく分けると3つほどあり、経路別に分析することで、一気に解像度を高めることができました。

須藤:
なるほど。全体の顧客をまとめて分析するのではなく、経路やニーズごとに分類して分析すると良いということですね。

神山氏:
そうです。エモーションテック社にも分析のスペシャリストがいらっしゃいますが、実際にビジネスを担当している領域の知見と合わせて分析していくことが重要だと感じました。

データ分析の結果をCX改善アクションへ連携させる

経験や勘ではなく、データから優先的に解決すべき点を抑える

須藤:
認知経路によって訴求方法やキーワードが違ってくるというお話でしたが、データ分析の結果をどのように改善に活用されていますか?

神山氏:
保険業界ではパンフレットを始め、チラシ・メール・ランディングページ・動画など様々な手段で、お客様に商品を告知したり訴求したりするのですが、各々で使われているワードがあります。

例えば、「補償範囲が広い」とか「割引が適用されていて安い」、「相談窓口がいつでもあいている」などがあります。そうした訴求ポイントは実は過去の経験とか勘によって選定されていて、なんとなくこれが響いているだろうと思われていたんですね。

NPSなどを使って顧客の声をしっかり聞いていくと、セグメント別であったり申し込み経路別であったりしますが、全部順位がぱぱっと出てくるんですよ。ですので、この順位に基づいて選定をして、チラシやランディングページの訴求内容を変えることができました。

訴求キーワードを顧客目線で決定


※上記画像は、実際のデータ分析の結果ではなく、イメージです。

須藤:
マーケティングを企業目線で考えてしまうと、どうしてもこれまでの経験などに拠り所を求めてしまいがちですが、顧客目線をデータでしっかり取り入れていくことが重要ですよね。

神山氏:
そうですね。一例として、保険料の支払い方法には給与からの天引きという仕組みがあるのですが、最近はクレジットカードのポイント還元なども人気なので、個人的にはあまり満足いただけていないのかなと感じていました。

しかし調査結果を見てみると、結構ご評価いただいているのがわかって、思っていたものと違う発見をすることが面白かったです。

顧客目線でリソース配分を変え、顧客からより求められるサービスへ

須藤:
データ分析の結果、「やっぱり思っていたどおりだったか」というケースもありますが、こうした顧客目線との違いを感じられるのも、CX調査ならではですね。

顧客目線との違い、ということでいうと訴求チャネルも変えられたんですよね?

神山氏:
はい。先ほどお話したとおり、チラシやwebページやメールで日々告知などを行っているのですが、このチャネル・方法も経験や勘によって「多分お客様はメールでみているだろう」という感じで決まっていました。チラシの数や時間、お金の使い方、いわゆるリソース配分も過去の経験から決められていたのですが、実際に調べてみるとお客様が認知しているのは別のルートからだったと認識することが出来ました。

従来の方法と比べても、4倍近い価値が出せる方法に切り替えたことで、徐々に成果が出始めています。

訴求チャネルをデータに基づいて決定


※上記画像は、実際のデータ分析の結果ではなく、イメージです。

須藤:
まさに営業戦略にとって非常に重要な部分ですね。

こうした企業目線と顧客目線に差が生まれてしまうのって、何が原因なのでしょうか。

神山氏:
私の反省点でもあるのですが、実際のお客様の状況を常に見ることができるわけではないので、「きっとお客様はこう見ていらっしゃるのだろう」「きっとこんな感じで体験してくださっているだろう」と推定しながら施策を実施してきてしまったことが原因だと思います。

どういったお客様がロイヤルティを感じられてらっしゃるのかをNPSなどによって可視化していく中で、私達も新たに気づかされたニーズもあり、現在では新たな商品の開発なども検討しています。

振り返ってみて、今後の取り組みについて

NPSを知ることはスタートラインに立つこと

神山氏:
NPSをただのアンケートとして捉えるのではなく、データとして考える必要があると考えています。データは現代における石油だと比喩されますが、このデータには本当に多くのヒントが転がっていると思いました。カスタマージャーニーマップや顧客の認知の仕方もそうですし、新商品の開発のヒントも得ることができました。そういった意味では、NPSデータを活用してよかったと思います。

一方で、「NPSを知ることはゴールではない」というのは代理店さんとも当時から話をしていました。あくまでもNPSを上げていくために何が求められているのかという現状を知り、施策にトライをしてみてNPSや継続率が上がっていくかどうかを検証・改善していく、その一歩目、つまりスタートラインに立つことだと認識しています。

まずはその一歩目を踏み出せてよかったと思います。

須藤:
そうですね。NPSは測った瞬間にどうということではなく、顧客体験の改善を一つ一つ積み重ねていくものですよね。

データサイエンスとビジネスの現場感をつなぐ

須藤:
データ分析について振り返ってみていかがですか?

神山氏:
私達のメンバーが出版している「データ分析人材になる。」(日経BP/ 三井住友海上火災保険株式会社 木田 浩理、伊藤 豪、高階 勇人、山田 紘史共著)という書籍の中で、「ビジネストランスレーター」という役割が提唱されています。

データサイエンティストはデータのスペシャリストですが、データをビジネスで役立てるためにはビジネス領域としっかり橋渡しをする役割が必要だと考えていて、まさにCXでも同じだと思います。

先ほどのセグメントの話もありましたが、今回のようにCXデータの専門家であるエモーションテック社とビジネス領域に精通してる私達が一緒になってデータを分析していくからこそ見えてくる世界はあるなと感じました。

これからもこういった取り組みをどんどん進めていきたいと思っています。

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