インナーループとアウターループを活かした全社横断的なCXM推進のポイント | 株式会社エモーションテック

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2023.10.23

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インナーループとアウターループを活かした全社横断的なCXM推進のポイント

Customer eXperience Management(顧客体験マネジメント)という言葉をご存知でしょうか?CXMとは、顧客体験を向上させ、その価値を最大化するための取り組みです。

かつては、「製品やサービス自体がもつ機能」や「価格」が消費者にとって最も重要な要素と考えられていました。
そのため企業は、より多くの機能を提供したり、競合他社よりも低価格で商品を提供したりすることで、競争優位に立とうとしてきました。

しかし、様々な製品が市場にあふれ、それらの情報をインターネットで簡単に比較できる時代の到来とともに、商品自体の機能や価格の魅力のみで消費者の心をつかむことが難しくなりました。
消費者は製品やサービスを利用するまでの一連の体験に重点をおき、優れた顧客体験を提供する企業を選ぶようになっています。

また、優れた顧客体験を提供する企業に対して消費者はロイヤルティを感じるようになり、継続的に利用を続けたり良い口コミを積極的に広めたりするなど、企業にとってプラスの行動をとることが明らかになっています。
このような背景から、現代のビジネス競争を勝ち抜くために、顧客体験を管理し継続的な改善を進めていくことで顧客からのロイヤルティを獲得するCXMに取り組む企業が着実に増加してきています。

では、実際にどのようにCXMを進めていくべきでしょうか?
CXMを推進していく上では、「アウターループ」と「インナーループ」を意識することが重要です。

本記事では、「アウターループとインナーループとは何か?」といった定義から、その活用方法について、CXMの基礎知識を踏まえながらご紹介します。

アウターループとインナーループとは

NPSの調査は一度行って終わりではなく、顧客のフィードバックに対して改善し続けるサイクルを回すことが重要です。このサイクルのことを「クローズドループ」と呼びます。
CXMの全体像を捉え、クローズドループを回していく上でおさえておきたいフレームワークとして、「アウターループ」と「インナーループ」があります。

インナーループとアウターループとは

アウターループ(Outer loop)は、長期的かつ戦略的な改善を目指すためのプロセスや活動のことを指します。特定のチャネルというよりは組織全体の視点を持ち、組織全体の戦略的な意思決定と改善に関与するCX部門や経営企画部門などの全社横断チームやマネジメント層によって実行されます。
顧客のニーズや期待を把握し、ビジネス戦略やプロセスの改善、製品の開発などの戦略的な決定を行います。また、顧客のフィードバックやデータ分析を通じて、優れた顧客体験を提供するための戦略を策定し、組織全体に展開する役割を果たします。

調査の方法としては自社の評価を聞く「全体俯瞰調査」や競合他社との比較を実施する「競合調査」に大別されます。目的に合わせて自社のユーザーにアンケートをとったりパネルを利用して自社ユーザー以外も含めた幅広い声を集めたりします。

インナーループ(Inner loop)は、個別のチャネルや顧客体験を改善するための短期的かつ具体的な対応やアクションのことを指します。例えばWeb接客やコールセンターでの会話など顧客との直接の対話や取引の過程で実行されます。
主に対象となるチャネルを管理する部門を中心に改善を進めるために活用します。また、顧客からのフィードバックや苦情に対して迅速かつ適切に対応し、問題解決や顧客満足度の向上を図ることもできます。インナーループは、アウターループと比較して短いスパンで調査を実施したり、定常的に調査を実施したりと、高速でPDCAを回すために活用されます。

また、アウターループとインナーループは、相補的な関係にあります。
アウターループは組織全体の改善と戦略に関与し、インナーループは個々のチャネルでの顧客体験を向上させるための具体的な対応を行います。両者を組み合わせることで、顧客の期待に応える戦略的な改善が進み、持続的な顧客満足度とロイヤルティの向上が実現されます。

アウターループとインナーループを運用するには

アウターループとインナーループを回し、CXMを推進させるためには、単にCX(顧客体験)の満足度を調査するというだけではなく、下記のようなポイントを押さえる必要があります。

  • 顧客ロイヤルティを適切に評価する
  • 2種類のNPS調査を組み合わせて運用する

次章から、これらのポイントを、CXMを推進する具体的な流れに沿ってご紹介していきます。

顧客ロイヤルティを適切に評価する

CXMを推進する上では、まず顧客ロイヤルティ(顧客の愛着度、信頼度)を適切に評価・計測することが重要です。
「顧客が現在、どのようにサービスを評価しているか(現状の評価)」を定期的に測定することで、実行した改善施策に対して、顧客の評価がどのように変化したのかを知ることができます。
また、単に現状の評価のみではなく、「なぜその評価がされているのか」「強みとなっている顧客体験は何か」「弱みとなっている顧客体験は何か」を調査し、改善活動に繋げることが大切です。

関連記事:
顧客ロイヤルティとは?顧客を引き付けるマーケティング手法

では、顧客ロイヤルティを適切に評価するためのポイントを3つ説明いたします。

自社で納得感のあるロイヤルティ指標の選択

基本的には、自社で納得感をもって推進することができるロイヤルティ指標を選択することが必要です。納得感のない指標を選択してしまうと、全社で共通の目的意識をもって取り組むことが難しくなるためです。

選び方のポイントとして、「心の満足」を測ることのできる指標を選ぶことをおすすめします。
顧客満足は、「頭の満足」と「心の満足」の2つの側面から成り立っています。
一つは値段や機能など合理的なことへの満足を示す「頭の満足」です。そして、もう1一つが親身な接客を受けて嬉しかったというような情緒的な「心の満足」です。
研究の結果、「頭の満足」と「心の満足」を比較すると「心の満足」が高い人の方が収益性や継続性が高いことが明らかになっています。
下の図は、2007年にジョン・H・フレミングらが「Customer Satisfaction: A Flawed Measure」というレポートで発表した、頭の満足と心の満足に関する調査結果です。

このグラフは、クレジット会社における「月額利用料金」と「利用回数の月平均」が、頭で満足している顧客と、心で満足している顧客でどのように異なるのかを示しています。
心で満足している顧客の方が、頭で満足している顧客よりも100ドル以上高い料金を毎月支払い、利用回数も高いことが分かります。
一方で、頭で満足している顧客は、不満を抱えている顧客とあまり変わらない結果となっています。このことから、企業の収益につながる可能性があるのは「心の満足」であると言えます。

心の満足と月額利用料金の関係性

ロイヤルティを計測する上では「頭の満足」だけではなく、情緒的な「心の満足」を計測する指標を用いることが必要です。
「頭の満足」を示す指標を活用すると満足度を高める活動を実施していても、ユーザーが離れてしまう結果に陥るリスクがあるからです。

従来の顧客満足度調査は「頭の満足」も「心の満足」も混同して取得してしまうため、真にロイヤルティにつながる評価ができていない可能性があります。
ただし、先ほどお伝えしたように、自社で納得感のある指標を選択することが取り組みを継続するうえで重要です。どのような指標を採用して良いかわからない場合は、どの指標が自社に適切かを検証することから始めてみましょう。

顧客ロイヤルティ指標「NPS®️」とは

「心の満足」を測ることのできるロイヤルティ指標として、NPS®️をご紹介します。
NPSとは、Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)を略したもので、顧客ロイヤルティを数値に表す指標です。NPSは、単純に自社の商品・サービスの満足度を聞くのではなく、どれだけ他人に勧めたいかを0~10点で顧客に評価してもらいます。

NPSの利点として、企業の未来の収益性と強い関係性があるということがあげられます。
実際に弊社が過去に行った調査でも、自動車業界や家電メーカーでは推奨度が高いユーザーほど購入頻度・購入単価・複数製品の利用率が高かったり、健康食品のECでは継続利用している顧客の割合が高くなるといったデータがあります。

CXMは単に顧客体験を向上させ、ロイヤルティを高めましょうというだけの取り組みではなく、その先に企業の成長や企業から社会への豊かさの還元など顧客・社会・企業とで三方よしの関係性を目指すものです。
そのため、企業収益との関係性が高いNPSはCXMの取り組みを進めるうえで効果的な指標といえるのです。

関連記事:
NPS®とは?顧客満足度との違い・質問方法・事例まで詳しく解説!

体系化した顧客理解

漠然と顧客ロイヤルティを測定するだけでは、正しく現状を理解することができません。
まずは自社のロイヤルティの構造を整理をする必要があります。

例えば、ロイヤルティ指標についてであれば、ブランド全体のロイヤルティを計測するのか、個別のチャネル(Webなど)のロイヤルティを計測するのかを明確にしましょう。その上で、意図をもって計測をします。
また、評価すべき個別の顧客体験についての設問が網羅的か、アクションに繋がる設問粒度か、顧客に回答負担が掛からない適切な設問量かの観点でも精査する必要があります。

このバランスがとれていないと「顧客のニーズを的確に捉えられない」「何を改善すれば良いかわからない」「アンケートによって顧客ロイヤルティを損なう」といったリスクが発生します。そのため、ロイヤルティの構造を体系的に整理し、具体的なロイヤルティ評価の戦略を練ることが重要です。

持続的な関係の構築

顧客のロイヤルティは、企業と顧客との長期的な関係構築に基づいて形成されます。
したがって、顧客が認知し、検討や購入、利用にいたる一連の顧客体験を通してどのようにロイヤルティが生まれているか、生まれていない場合はその理由を理解する必要があります。

また、CXMの本質は継続的に改善活動を続けることにあります。現状のロイヤルティの評価をしただけで満足するのでなく、評価をもとに改善施策を実施しましょう。
そして、改善施策の後にロイヤルティがどう変化したかを再評価し更なる改善活動につなげていくというサイクルを回すことが重要です。単発の調査と捉えてしまうと改善のサイクルが回らず形骸化した評価活動になってしまいがちです。
長期的な視点を持ち、ロイヤルティを評価・活用する方法を検討し、アプローチを進めることが大切です。

2種類のNPS調査を組み合わせて運用する

NPS調査は、目的によって様々な方法があり、大きく分けると「R-NPS(リレーショナルNPS)調査」と「T-NPS(トランザクショナルNPS)調査」に分けられます。
R-NPS調査は、主に企業の商品や企業やブランド全体に対するロイヤルティを測ります。
通常、ブランドに対する全体的な満足度を質問し、定期的な調査を実施します。

R-NPS(リレーショナルNPS)調査ではブランドや企業全体のロイヤルティを測ります。
この調査は、サービス全体でどのチャネルを改善するべきかなど、大まかなあたりをつけるために行われます。
T-NPS(トランザクショナルNPS)調査は特定のやりとりやタッチポイントに着目し、サービスにおける顧客体験ごとの評価を測ります。
この調査は定常的に行うことが多く、カスタマージャーニー上の課題を特定し、改善することを目的としています。

組織全体の改善と戦略を練るアウターループでは、ブランド全体のロイヤルティを示すR-NPS調査が活用されます。個々のチャネルでの顧客体験を向上させる対応をするインナーループでは、T-NPS調査を活用するケースが一般的です。

それぞれの具体的な特徴や調査方法については、以下の記事でも解説しています。

関連記事:
NPSの効果的な調査方法とは?調査票の作成方法や調査設計のコツを解説

R-NPSとT-NPSを組み合わせる方法

R-NPSとT-NPSは相互に関連しており、どちらか片方ではなく、アウターループとインナーループを意識しながら組み合わせることが効果的です。

リレーショナルNPSとトランザクショナルNPS

例えば、上図のように構造的にとらえることで全体像が把握しやすくなります。
まず上段に、「ブランド・企業に対する評価」であるR-NPSがあります。
R-NPSと各ファネルのT-NPSは紐づいており、T-NPSについては認知〜購入〜利用までの一連の顧客体験を整理し重要なタッチポイントの評価を取得しています。
「認知時」「購入時」「お問い合わせ時」といった一連のカスタマージャーニーで並べることで、取得しているファネルとしていないファネルを区別することや、何を評価しているかを整理しやすくなります。

また、R-NPSとT-NPSをそれぞれ独立した評価として捉えるのでなく、R-NPSとT-NPSとの関係性を検証することで、それぞれの取り組みの結び付きがわかり全社のロイヤルティ構造を可視化することができます。
そしてロイヤルティ構造を可視化したうえで、R-NPS調査と各T-NPS調査の具体の戦略を練るにあたっては、それぞれで「誰が」「どのような目的」で実施するか整理することが重要です。

誰がどのような目的で実施するか

R-NPSとT-NPSの具体的な活用例

ここからは、具体的な実践事例を踏まえて、CX構造の整理の仕方について解説します。
例えば、製造業の事例では、下図のようにCXを構造的に整理しています。

cx構造の整理

この企業ではまず、CX推進部を中心に半期に1度、ブランド全体のR-NPSと顧客が重視するポイントや現在課題となっているポイントを検証しています。

また、競合調査も定期的に実施し、競合と比べて自社の何がロイヤルティを生む強みとなっているか、弱みとなっているかも検証し、全社的な戦略立案に活用・改善活動を進めています。改善活動を進めるにあたっては、各事業部門にも結果と実施して欲しい改善の方向性を示しています。

一方で各事業部門ではCX部門から降りてきた全社の結果も踏まえたうえで、各チャネルごとのT-NPSを活用した評価と改善活動(インナーループ)を進めています。
多くの企業がつまづくポイントになりますが、重要なポイントは全社で「いつ」「誰が」「どういう目的で」「どのように」調査を実施し、それらを「誰が」「どのように」活用するかをきちんと整理しておくことです。
「調査」で終わらせず、改善のループを回すために、活用のイメージを強固にして取り組みましょう。

アウターループとインナーループはどちらから始めるべきか

前の章で、R-NPSとT-NPSを組み合わせたCXMの構造をご紹介しましたが、この方法は全社的な取り組みと個々のチャネルでの高速のPDCAの組み合わせという、いきなり始めるにはハードルが高い取り組みです。
まず取り組みを始めるにあたっては、確実に調査からアクションにつなげることができるスピード感・規模感・チャネルから開始されることをお勧めします。
確実に改善アクションを起こせるところから開始し、小さな成功体験を重ねることで徐々に活動を拡大していくことが継続的な取り組みを行うコツです。

ただし、理想的にはR-NPSを取得するアウターループから開始する方が全社的な戦略を考えやすく、注力する領域もわかるため取り組みとしてスムーズに広げやすいです。特にNPSを活用したCXMの取り組みをスタートする際には、NPSが自社の収益に直結する重視すべき指標であるかを検証することで活動のアクセルが踏みやすくなります。また、CXMの活動を続けるためには企業として顧客体験を重視する文化を作らないと上手く行かないケースが多いため、全社的な施策から落とし込む方が効果的です。

そのため、進めやすいインナーループから開始したとしても将来的にはR-NPSに繋げていく、ひいては全社的な取り組みへと拡大していく意識をもつことが重要です。部分的な取り組みでは一連の顧客体験の全てをカバーすることはできず効果を最大化させることができません。

現在の取り組みが全社的なCXのなかで「どこの位置付け」にあるのか、現在取り組めていない領域はどこかを明確に理解し、次に取り組むべき領域の計画をたてることや個別の取り組み同士の連動性を高めることが必要です。

話はややそれますが、例えば店舗のT-NPSなどは、その店舗で働く従業員のeNPSと連動しているかなど、他の取り組みと組み合わせて分析することもできます。
重要なことは、R-NPSとT-NPSの指標を軸に、インナーループとアウターループの構造を整理・把握することです。この構造を把握することで、多角的に全社のロイヤルティを評価できるようになります。

CXM推進には全体像の整理が重要

CXMを進める上ではまず、自社のロイヤルティを評価することが必要です。
そのための指標の1つとしてNPSがありますが、漠然と活用するのでなく自社のCXの取り組みの全体像を整理し「R-NPS」と「T-NPS」を使い分けてロイヤルティの評価を実施しましょう。また、ロイヤルティの評価にあたっては改善まで繋げる意識を強く待つことが必要です。

インナーループとアウターループという構造での整理に加え、「いつ」「誰が」「どういう目的で」「どのように」調査を実施し、それらを「誰が」「どのように」活用するかをきちんと整理した上で、評価〜改善のサイクルを進めていきましょう。
この記事が、CXMのサイクルを推進させる上でのポイントについて理解を深める一助となりましたら幸いです。

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