VoCデータをテキストマイニングで分析する方法
更新日:2025.05.20


梅川 啓
株式会社エモーションテック Marketing Manager
複数企業の事業責任者を歴任したのち、2020年よりエモーションテックにCXコンサルタントとして参画。製薬会社や金融機関、化粧品メーカーのNPSプロジェクトやCXマネジメントの支援に携わる。2022年よりマーケティングに従事し、各種セミナーやイベントに登壇。
近年、多くの企業が「顧客の声(VoC:Voice of Customer)」を活用し、顧客体験(CX)向上や製品・サービスの改善、ブランドロイヤルティの向上に役立てようとしています。VoCを体系的に収集し、そこから真の課題やニーズを的確に把握するための手法として一般的なのが「テキストマイニング」です。従来、アンケートやコールセンターの音声データ、SNS上の投稿など、定性情報は「個別に分析するには時間がかかる」「データ量が膨大で抽出が難しい」という問題がありましたが、テキストマイニングによってその壁を突破することが可能になっています。
とはいえ、テキストマイニングの導入・運用には、分析ツールや分析手法の選定、社内体制の構築など、いくつかのハードルが存在します。そこで本記事では、以下の内容を包括的に解説します。
目次
VoCをテキストマイニングする重要性
企業の顧客接点は、店舗やコールセンターだけでなく、SNSや口コミサイト、チャットボットなど、多岐にわたります。多様なチャネルから寄せられる「顧客の声」は企業にとって非常に重要な経営資源ですが、量が膨大であるがゆえに、「一度にすべてを分析するのは難しい」「テキスト情報を体系的に可視化できない」といった課題が存在してきました。
この課題を解決したのがテキストマイニングです。テキストマイニングとは、大量のテキストデータに含まれるパターンやトレンド、感情の傾向などを数値化・可視化することで、人間のリソースだけでは捉えきれない洞察を得る手法を指します。たとえば、製品に対するクレームが多い特定の要因を発見したり、SNS上での評判がどのように変遷しているかを捉えたりと、定性的な情報を定量化することで、より精度の高い課題抽出と意思決定につなげることが可能です。
大手企業においては顧客接点が広範囲にわたるため、VoCの収集量も膨大となりがちです。その中でテキストマイニングを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 顧客の潜在ニーズや感情を把握:アンケートだけでは見えない顧客の本音や感情を深掘りし、サービスや製品の改善につなげる。
- 顧客満足度やロイヤルティの向上:具体的な問題点を迅速に特定し、改善策を打ち出すことで顧客ロイヤリティを高める。
- データドリブンな意思決定:定性的なフィードバックを定量化することで、経営層の意思決定をより的確にサポートする。
- 部門間の連携強化:VoC分析結果を共有しやすい形で可視化すれば、マーケティング部門や商品開発部門とスムーズに連携しながら施策を打ち出せる。
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VoCをテキストマイニングするための下準備
VoCの収集チャネルを整理する
まずは、どのチャネルからどのように顧客の声を収集しているかを整理しましょう。例えば以下のようなチャネルが考えられます。
- コールセンターの通話録音や応対履歴
- 顧客満足度やNPSアンケート(自由記述欄含む)
- SNS(Twitter、Facebook、Instagramなど)の投稿
- メールやチャットによる問い合わせ
- 口コミサイト(価格比較サイト、レビューサイトなど)
- オンラインコミュニティやフォーラム
これら複数チャネルからVoCを取得し、テキストデータとして統合するための仕組みを確立することが重要です。特に大手企業の場合、部門ごとに異なる方法で顧客の声を集めているケースが少なくありません。そのため、「どこにどんなデータが蓄積されているのか」をまず把握し、データの統合性やフォーマットを整えるところから始める必要があります。
テキストの前処理・クレンジング
テキストマイニングにおいて、データの前処理やクレンジングは欠かせないステップです。以下のような作業が含まれます。
- ノイズの除去:HTMLタグや記号、URLなど、分析対象として不要な情報を取り除く。
- 正規化:全角・半角の統一や、異体字表記の統一などを行う。
- 分かち書き・形態素解析:日本語の場合、分かち書きや形態素解析エンジンを用いて単語に分割し、品詞を特定する。
- ストップワードの処理:「です」「ます」「する」など分析に寄与しない単語を除外し、データ量を減らす。
- 固有名詞・専門用語の登録:自社の商品名や専門用語がある場合は、辞書に登録しておく。
これらの前処理をきちんと行うことで、後に行う分析の精度が大きく変わってきます。実際、多くのデータサイエンティストやCXコンサルタントは、分析に費やす時間の中で前処理の比重が非常に高いと指摘しています。前処理が不十分だと、得られた分析結果そのものがノイズまみれになり、効果的な施策につながらない可能性があります。
分析目的の明確化
テキストマイニングを行う前に、「何を分析したいのか」「得られた知見をどのように活用したいのか」を明確にすることが大切です。目的設定が曖昧なまま分析をはじめると、膨大な結果に振り回されてしまい、結局どの施策も実行できずに終わる恐れがあります。たとえば、以下のように目的を定義しておくとよいでしょう。
- ネガティブなコメントが多い要因を特定し、製品開発に反映する
- ロイヤルカスタマーの声を深堀りし、エンゲージメント向上施策を立案する
- 顧客セグメントごとに特徴的なキーワードや感情傾向を調べ、新規キャンペーンに反映する
目的が明確であれば、必要なデータの範囲や分析アプローチ、そして成果物の提示方法も明確になります。また、目的に即したKPIを設定し、分析結果を定期的にモニタリングする仕組みづくりも重要です。
テキストマイニングの主要手法と分析の流れ
1. 感情分析(センチメント分析)
感情分析は、テキストに含まれるポジティブ・ネガティブ・ニュートラルといった感情の極性を数値化し、可視化する手法です。ツールによっては、より詳細な感情カテゴリー(喜び、悲しみ、怒りなど)に分類できるものもあります。SNSの投稿やアンケートの自由記述欄から、製品やサービスに対する肯定・否定的な感情を把握し、どのような要因でポジティブにもネガティブにもなるのかを深堀りする際に有効です。
- 顧客ロイヤルティの向上施策:ポジティブな感情を高めるには、具体的に何が評価されているのかを特定する。
- クレーム対応施策:ネガティブの割合が多い場合、どの部分が不満の主因になっているのかをフォーカスする。
2. トピックモデリング
トピックモデリングは、膨大なテキストデータから潜在的に含まれるトピック(話題のクラスター)を自動的に抽出する手法です。代表的なアルゴリズムとしてLDA(Latent Dirichlet Allocation)などがあります。たとえば数万件規模のアンケート自由記述欄がある場合に、それらがどのような話題に分類されるかを自動でグルーピングして可視化することができます。
- 多岐にわたる意見の把握:あらかじめ想定していなかったテーマや潜在的な課題を発見できる。
- 優先度付け:話題ごとの出現頻度や感情スコアなどを組み合わせることで、どのトピックを優先的に対処すべきかを決定する。
3. ワードクラウド・キーフレーズ抽出
テキストの中で頻出する単語やフレーズを可視化する方法です。ワードクラウドとして単語を視覚的に表示することで、どんなキーワードがよく言及されているかを直感的に把握できます。またキーフレーズ抽出を行えば、「顧客がどんな文脈でその単語を使っているのか」「そのフレーズの前後関係はどうなっているか」を深く理解することができます。
- SNSや口コミサイトのざっくりとした印象把握
- 新製品やサービスに対する頻出キーワードの整理
4. 類似度分析・クラスタリング
テキスト同士の類似度を計算し、クラスターを形成することで、似た内容をまとめる分析です。たとえば「料金に対する不満」と「支払い方法に対する不満」が類似度の高い文脈としてグループ化されることで、顧客が料金周りに抱えるストレスポイントを総合的に捉えやすくなります。
- 問題領域の特定:共通点の多いクレームをまとめて一括で対策を検討できる。
- ユーザーセグメントの可視化:顧客属性ごとにどのようなクラスターが形成されるかを見れば、セグメントの特徴を捉えられる。
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テキストマイニングツールの選び方と注意点
オンプレミスかクラウドか
テキストマイニングを行う際、ツール選択は非常に重要です。代表的な手段としては、オンプレミス型とクラウド型があります。
- オンプレミス型:
自社サーバーにソフトウェアを導入し、データを内部で処理する。セキュリティやカスタマイズ性では優位な反面、初期導入コストや運用負荷が高い傾向にある。 - クラウド型:
ベンダーのクラウド環境でテキスト分析を行う。導入が比較的容易で、初期費用も抑えやすい。ただし、自社要件に合わない部分がある場合や、データを外部に持ち出すことへのリスク評価が必要。
日本語分析への対応状況
グローバルベンダーの提供するテキストマイニングツールは英語の文書分析には強いですが、日本語における形態素解析や固有表現抽出への最適化が不十分な場合もあります。特に日本語は英語に比べて単語境界が明確でないため、形態素解析エンジンをきちんと組み込んでいるかどうかは大きなポイントです。導入前にPoC(概念実証)などで十分な精度が得られるか確認しましょう。
カスタマイズの柔軟性
自社独自の製品名やサービス名、業界特有の専門用語などを正しく認識しないと、分析精度が大きく低下する可能性があります。そのため、ユーザー辞書の追加登録や感情辞書の拡張など、カスタマイズ機能の柔軟性は重要です。また、UI上で簡単に調整できるのか、あるいはプログラムによる設定が必要なのか、といった運用面の確認も必要になります。
レポーティング・可視化機能
分析結果をレポートとして共有しやすい形式で出力できるツールが望ましいです。例えば、クラウド上でインタラクティブにレポートを作成し、リアルタイムで各部門に情報を共有できる仕組みがあると、CX部門の担当者としてはスピーディに改善提案を行えます。ダッシュボード機能やアラート機能などが備わっていると、分析結果に応じたアクションをタイムリーに起こしやすくなります。

テキストマイニング導入後の運用と組織体制
部門横断的なチーム編成
テキストマイニングの結果を最大限に活用するには、CX部門だけでなく、マーケティング部門や商品開発部門、コールセンターなど関連部署が連携して分析結果を活用することが重要です。部門間をつなぐハブとなる役割を担う人材を配置し、定期的にミーティングを開いて情報共有を行う体制づくりが求められます。
分析結果をアクションにつなげるプロセス
テキストマイニングによって得られるインサイトはあくまで「顧客の声を可視化・定量化したデータ」であり、それ自体が最終目的ではありません。得られた結果をもとに具体的な施策を立案し、実行し、効果を検証するという一連のPDCAサイクルを回すことで初めて成果につながります。たとえば、以下のプロセスを設定すると分かりやすいでしょう。
- 分析テーマの設定(例:新製品に対するネガティブ要因の特定)
- テキストマイニングを実施し、主要キーワードや感情スコアを解析
- 分析結果を踏まえて施策を提案・実施(例:製品仕様の変更、価格改定など)
- 施策の効果をモニタリングし、再度VoCを収集・分析
- 成果や課題をフィードバックして次の施策を検討
このサイクルを組織全体で回していくことで、顧客満足度やCXを継続的に高めていくことができます。
データの蓄積・メンテナンス
テキストマイニングで成果を出し続けるためには、常に新しいVoCを取り込み、データセットを更新し続けることが求められます。また、分析のための辞書や分析システムそのものも定期的にメンテナンスする必要があります。新しい製品がリリースされるたびに、固有名詞や専門用語を辞書に登録し、新規のネガティブワードやスラングなども取り込んでいくことで、精度が維持・向上されていきます。
テキストマイニング活用の成功事例と失敗例
成功事例:大手通信会社におけるチャーンレート低減
ある大手通信会社では、毎月発生する解約率(チャーンレート)を下げる目的でコールセンターの通話データをテキストマイニング分析しました。最初は漠然と「料金が高い」という理由だけに注目していたものの、分析の結果、「契約時の説明と実際の請求にギャップを感じている」という不満が大きな要因であることが判明しました。
同社はこの結果をもとに、契約プランの説明資料を全面的に見直し、コールセンターオペレーターのトレーニングを強化。また、Webサイト上でもプランシミュレーターを導入し、料金が明確に分かるよう改善を図りました。その結果、短期的に解約率が大幅に減少し、顧客満足度も向上したと報告されています。
失敗例:大量のデータを集めたものの組織に浸透しない
一方で、別の企業ではSNSやアンケートデータを大量に収集・分析したものの、結果が分かりづらく共有されなかったため、施策へ反映されなかったという失敗もあります。テキストマイニングのレポート結果がデータサイエンティストの間だけで完結してしまい、現場担当者や経営層に適切なタイミングで共有されず、アクションに結びつかなかったケースです。
このような事例を避けるには、分析段階から関連部門を巻き込み、可視化結果を誰でも理解しやすい形で提示すると同時に、組織として意思決定につなげるプロセスを明確にすることが重要です。
これからのテキストマイニングの発展
ここまで見てきたように、今日ではテキストマイニングは定性的なVoCデータから多くの示唆を得るための欠かせない手段となっています。
そして近年の生成AIの登場によりVoCデータの分析はさらに精度が高く、また効率よく実現できるようになってきました。従来のテキストマイニングでは十分に求める粒度の分析ができなかった場合でも、生成AIをうまく活用することでまさに「人が実行するのと同じように」VoCデータを捉えることが可能になっています。
特に生成AIは「文脈を読み取る」「感情を読み取る」「多言語でも対応できる」といった点において、従来のテキストマイニングよりも優れており、VoCデータの分析においてもうまく活用することで、さらなる顧客理解を促進してくれます。
まとめ
VoCをテキストマイニングにかけることで、顧客の本音や真の課題を定量的に把握し、顧客体験(CX)の向上を図ることができます。ただし、成功するにはデータの収集からツールの選定、分析の実施、組織体制の構築まで、一連のプロセスを戦略的に考え、PDCAサイクルを回し続ける必要があります。大手企業であれば部門間連携の複雑さもあるため、トップダウンでの推進力とボトムアップでの実務連携をうまく組み合わせ、継続的な改善活動を行う体制が求められます
また、生成AIの登場によりVoCデータの分析はさらなる進化を遂げるようになっています。最新動向をキャッチアップしながら、必要に応じて分析アプローチやツールを最適化していく姿勢が、顧客志向の企業文化を醸成する一歩になるでしょう。
今後、5G・IoTの普及とともに顧客接点がさらに多様化していくことが予想されます。そこから生み出される膨大なVoCを活用できるかどうかが、CX向上の鍵を握ると言っても過言ではありません。テキストマイニングの導入を機に、ぜひデータドリブンな組織文化を育み、顧客と企業の関係性をより良い方向へと導いていただきたいと思います。
よくある質問
テキストマイニングとはどのような分析手法ですか?
大量のテキストデータ(アンケート自由回答・SNS投稿・通話ログなど)を分かち書き/形態素解析 → キーワード抽出 → 感情・トピックの数値化といった工程で処理し、人手では把握しきれないパターンやトレンドを可視化する手法です。定性的な「顧客の声」を定量指標に落とし込むことで、課題抽出と施策立案をデータドリブンに行えます。
VoC分析に必要なテキストデータ量の目安は?
一般的に数千件以上あるとバイアスが小さく傾向を掴みやすくなりますが、製品単位の深掘りであれば数百件でも示唆を得られる場合があります。重要なのは量よりも「対象チャネルが目的と合っているか」「前処理が適切か」で、質の高いデータを確保すれば少量でも有効です。
生成AIは従来のテキストマイニングと何が違い、どう併用すべきですか?
従来手法は頻度・共起など統計的指標で傾向を把握しますが、生成AIは文脈を理解して要約・多言語翻訳・ニュアンス抽出を高精度に行えます。まず統計的分析でネガティブ要因を絞り込み、生成AIで原因説明や改善アイデアを自動生成すると、洞察の深さと作業効率を同時に高められます。
日本語テキストを分析する際、形態素解析辞書のカスタマイズは必須ですか?
自社製品名や業界固有語、略称が多い場合はユーザー辞書登録が推奨です。標準辞書のままだと単語分割が誤り、分析結果にノイズが混入します。PoCフェーズで未知語の分割ミス率をチェックし、必要に応じて辞書拡張・正規化ルールを設定すると精度が向上します。
テキストマイニング結果を社内共有し、施策に結びつけるコツは?
ダッシュボードや定期レポートで可視化し、CX・開発・マーケ各部門が同じ指標を参照できる環境を整えましょう。部門横断ミーティングを月次で設け、分析→施策立案→効果測定をPDCAで回すとアクション率が向上します。また「お客様の声を基に〇〇を改善しました」と社外へ発信するとブランドロイヤルティ向上にも寄与します。
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