NPS®ベンチマーク調査とは?実施目的やCXMに活かすポイントを紹介 | 株式会社エモーションテック

NPS®ベンチマーク調査とは?実施目的やCXMに活かすポイントを紹介

更新日:2024.07.26

このコラムの執筆者
梅川 啓

2020年にエモーションテックに参画。
CXコンサルタント、事業企画部門を経て、2022年末
よりマーケティングチームに従事。

市場環境が目まぐるしく移り変わる昨今、顧客の声を活かしたCXM(カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント)の重要性に着目する企業が増えています。

CXMの取り組みをスタートする際、「簡単に声を集めやすい」という理由で、自社で管理するメールマガジンや会員サイトで調査を開始する企業が多く見受けられます。
確かに、実際に自社の製品やサービスを利用している顧客の声を聞くことは、自社の評価を知るうえで非常に有効であり、また容易にスタートすることができます。
一方で、データ分析の基本は比較にあります。

自社のユーザーの声を聞くだけでなく、競合製品やサービス利用者の声を聞き、自社と比較することで「業界全体の傾向」「自社だけの強み」「自社だけの弱み」などを把握することができます。調査の目的によっては自社のユーザーの声だけでは不十分なケースもあり、その際には競合ベンチマーク調査という手法が非常に効果的です。

本記事では、CXMにおけるNPSベンチマーク調査を実施する目的や運用の仕方、自社ユーザー調査との使い分けについて解説いたします。

EmotionTechのNPS関連サービスがわかる資料(概要・支援実績)をダウンロードする

NPS®️ベンチマーク調査とは

NPSベンチマーク調査(NPS競合調査)とは、競合商品や同業他社のNPSを自社のNPSと比較し、様々な側面から分析を行う調査です。
NPSベンチマーク調査は、自社と他社の顧客ロイヤルティを客観的に評価することができるため、改善や戦略立案に役立ちます。

競合調査は、その名にあるように競合他社の活動や戦略を調査・分析するプロセスであり、戦略立案や意思決定において欠かせない要素となります。
競争が激しい市場では、いかに競合他社との差別化を行い、競争力を高めるかが成功の鍵となります。
そのため、サービスや商品を比較・分析する従来の競合調査に加え、CX(顧客体験価値)を改善するための競合調査を行う企業が増えています。

NPS®について知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

関連記事:
NPS®とは?顧客満足度との違い・質問方法・事例まで詳しく解説!

従来の競合調査とNPS®️ベンチマーク調査の違い

従来の競合調査では、製品・サービス軸での比較を実施することが主流でした。
それに対し、NPS®️ベンチマーク調査では、自社を含めた複数の競合他社ブランドに対するロイヤルティや顧客体験の軸を加えた調査・分析を実施します。

では、どうして顧客ロイヤルティについての調査が必要なのでしょうか。

顧客満足には、下記の図表にあるように「頭の満足」と「心の満足」があります。
「頭の満足」とは、機能面が揃っていて便利であったり、価格が安価であるなどの合理的な基準や判断によって満たされる満足のことです。
「心の満足」とは、「ユーザーサポートが丁寧で心地よかった」などの、感情的な基準・判断によって満たされる満足のことです。
頭の満足と心の満足

この概念は、2005年にギャラップ社のジョン・H・フレミングによって提唱されています。
価格や機能といった合理的な判断に基づく「頭の満足」でなく、より情緒的な「心の満足」の方がリピート購入などの収益につながりやすいということが明らかになっています。

心の満足と月額利用料金の関係性
※2007年「Customer Satisfaction : A Flawed Measure」と題したレポートでフレミングらが調査データを報告している

この「心の満足」を測る上では、ロイヤルティやその要因となる顧客体験の評価を知ることが重要です。NPSベンチマーク調査を実施することによって、単なる製品・サービス軸での比較にとどまらず、ユーザーのロイヤルティや顧客体験の評価を取得することが可能です。

NPSベンチマーク調査を実施する目的

NPSベンチマーク調査を実施する主要な目的は、業界内での顧客ロイヤルティのポジションや特徴を検証し、CXM戦略の立案に活用することです。
「他社に比べて優れた顧客体験を提供できているのか?」という視点で顧客の声を聞くには、自社ユーザーだけではなく、競合企業を利用するユーザーに対しても調査を行う必要があります。

また、さらにベンチマーク調査を実施する目的は5つに分類されます。本章では、これらの5つの目的について解説します。

  1. 業界内でのロイヤルティの立ち位置の把握
  2. 業界内で差別化を図る
  3. 他社を参考とした顧客体験価値の向上
  4. マーケットトレンドの把握
  5. 他業界からのヒントの獲得

1.業界内でのロイヤルティの立ち位置の把握

まずは、同じ業界の中で自社がどのような評価を受けているかを知ることが重要です。
ベンチマーク調査を行う目的の一つが「業界内での立ち位置」を知ることです。
競合他社のロイヤルティ(NPS)を評価し、自社のロイヤルティと比較することで業界内での立ち位置を把握しましょう。
そして、業界内でもトップクラスの顧客ロイヤルティを獲得する「NPSの業界リーダー」を目指していくことが重要です。

『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』では「NPSリーダー企業」の10年間の株主総利益率(TSR)が市場の中央値に比べて510%を達成しており、NPSリーダー企業が非常に優れたパフォーマンスを発揮していることが紹介されています。

NPSリーダー企業のTSRの違い
フレッド・ライクヘルド(2022)『「顧客愛」というパーパス<NPS3.0>』p.95よりエモーションテックが作成

2.業界内で差別化を図る

NPSベンチマーク調査は、差別化戦略の策定にも活用されます。
競合他社の強みや弱みを分析し、自社の強みや弱点と比較します。競合他社が提供していない付加価値や独自の顧客体験を特定し、差別化戦略を策定します。

もちろん全ての顧客に対し、感動体験を提供し、ロイヤルティ向上に取り組むことが理想です。しかし、限られたリソースの中では、どの顧客体験の改善を優先するか、優先順位をつけて取り組む必要があります。
競合他社と比較する過程で、戦略的に最も重要な、自社の将来の成長を牽引すべき顧客属性や改善すべき顧客体験を把握することが重要です。

3.他社を参考とした顧客体験価値の向上

ロイヤルティの高い競合他社の顧客体験評価を調査し、自社の取り組みと比較してみましょう。
競合他社がどのように顧客のニーズや要求に対応しているかが、自社のCX向上施策の重要なヒントとなります。

同じ業界であれば顧客が重視する体験は類似している可能性が高いです。そのため、差別化戦略を練るだけでなく、競合他社の優れた特徴を見つけ出し、自社の戦略に組み込むことも顧客のロイヤルティを獲得するための効果的な手段となります。

4.マーケットトレンドの把握

マーケットトレンドや顧客の変化に対する洞察を得ます。
特に、経年で比較を行う場合、自社だけに起きた変化なのか、マーケット全体で同じ変化が起きているのかどうかは、施策を検討する上で見落としてはいけない視点です。

マーケット全体のトレンドを把握することで調査結果の解釈がしやすくなり、マーケットの動向に即した施策を検討することができます。
また、競合他社がまだ開拓していない領域や顧客層を特定し、マーケットシェアの拡大や新規顧客の獲得に向けたアプローチを考えるという使い方も可能です。

5.他業界からのヒントの獲得

異なる業界のCX先進企業と比較することで自業界の特徴を把握することができます。また、他業界で実践している優れた取り組みを通して、自社の成長機会を見つけることもCXMの取り組みを加速させる上で重要です。

このように、CXMにおける競合調査は、顧客中心のアプローチを強化し、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するための重要な手段となります。

NPSベンチマーク調査とNPS自社ユーザー調査の違い

NPSベンチマーク調査を実施する目的を5つに分けてお伝えいたしましたが、あらゆる場面でNPSベンチマーク調査が有効なわけではありません。
ベンチマーク調査の対となるのが、自社のユーザーのみに行う自社ユーザー調査です。
自社ユーザーへの調査と競合調査にはそれぞれ一長一短があり、どちらに取り組むべきかは調査の目的や検証したい仮説に応じて変わります。
自社ユーザー調査もベンチマーク調査もあくまでお客様の声を聞くための手段でしかありません。そのため、大前提として何のための調査かの整理をし、関係者全員で明確な共通認識を持つことができるよう準備しましょう。

ベンチマーク調査と自社ユーザー調査の違い

自社ユーザー調査は直接のフィードバックを得るため、自社の製品やサービスの改善に役立ちます。
一方、ベンチマーク調査は市場全体の傾向や競争状況を把握し、自社の差別化ポイントを見つけるために実施されます。両者を組み合わせることで、総合的な視点でCXM戦略を構築することができます。

NPS自社ユーザー調査との使い分け方

そのうえで、ベンチマーク調査とユーザー調査の使い分け方をお示しします。
使い分けを考える上では、以前にご紹介した「インナーループとアウターループ」の考え方が役立ちます。

関連記事:
インナーループとアウターループを活かした全社横断的なCXM推進のポイント

全社的な戦略立案や改善活動に活用する目的で少ない頻度で実施するアウターループと、個別最適を目指し短いスパンで繰り返し調査を実施するインナーループは組み合わせて実施することでCXMの成果を出すことができます。

自社ユーザー調査もベンチマーク調査も、インナーループアウターループどちらの用途にも活用することができます。
しかし、よりCXMの活動が推進しやすい方法として、まずはアウターループの一環として全社的な戦略を立案するためにベンチマーク調査を実施することをおすすめします。
そして、調査結果の深堀や、実施した施策の効果検証を行う目的で、自社ユーザーに向けた個別の調査(インナーループ)へとシフトしていくと良いでしょう。

インナーループとアウターループとは

NPS®️ベンチマーク調査を実施する際の注意点

CXMにおけるベンチマーク調査を実施する際に気をつけなければいけないのは、調査目的の整理と今後のアクションまで見据えたCXM構造の検討です。これらが不十分のまま調査を進めると検証したいことが検証できなかったり、アクションに繋げることができず、単発の取り組みで終わってしまう可能性があります。

まずは次の観点で目的を整理しましょう。

  • 目的は何か(何を検証するのか)
  • 誰に聞くか
  • どこで聞くか
  • どのタイミングで聞くか
  • 何を聞くか
  • どのように分析するか

この整理を行う過程で、検証目的と当てはまりが良い場合はベンチマーク調査に取り組みましょう。目的に応じて、自社ユーザー調査やその他の調査を選択することもあります。

NPS®️ベンチマーク調査を使用している事例

ここからは、事例をもとに具体的なNPSベンチマーク調査の活用方法についてご紹介します。

お客様情報
業種調理家電メーカー
競合他の家電メーカー
顧客接点の特徴家電量販店など卸して販売するため、自社にエンドユーザーの接点は少ない
課題感・より良い機能を搭載すればよいと考え開発してきたが、新興のデザイン力のあるメーカーや最低限の機能で安価な製品を出すメーカーが増えシェアを奪われつつある。
・機能の豊富さや品質では劣っていないので、機能軸/それ以外の要素も含めユーザーが何を求めているか知りたい。

この家電メーカーでは、質の良いものを製造すれば売れるという時代が過ぎ、デザイン力や低価格の製品を出すメーカーにシェアを後押しされています。闇雲に製品を開発するのでなく、お客様の声を聞き何が重要視されているか知る必要があると考えたわけです。

調査目的として、自社のユーザーの評価だけでなく、他社が何故評価されているかを知りブランド戦略を練り直すことに活用することが第一にありました。そのため、自社ユーザーの声だけでなく、競合製品を利用しているユーザーの声を集める必要があり、ベンチマーク調査を実施することになりました。

また、調査に当たっては、以下のように目的を整理しました。

目的の整理
目的は何か・市場のユーザーは調理家電に何を求めているか。
・自社のユーザーは何を評価して使用しているか
・他社ユーザーは何を評価して他社製品を使用しているか
誰に聞くか・自社製品のユーザー
競合製品の使用者(主要な競合3社+新興競合2社)
どこで聞くか・インターネットリサーチ(調査会社のモニターパネル)
・どのタイミングで聞くか
・現在使用中のユーザー(過去利用者でない)
何を聞くか・ブランドへのロイヤルティ
・ブランドの何を評価しているか
・調理家電を選択する際の重視点
・ブランドイメージ
どのように
分析するか
・自社と競合のロイヤルティの差異を検証
・自社ユーザーと競合ユーザーの比較
(評価している点/重視している点 / ブランドイメージ)

他社と比べた自社の特徴は主に50代以上のロイヤルティが高く「製品の壊れにくさ」や「保証の手厚さ」が評価されていました。
一方で、他社では「デザイン性の高さ」が特に20〜30代の層から評価され、高いロイヤルティを得ていることがわかりました。
デザイン性の高さを選んだ理由を聞く設問では「店頭やWeb上でデザインに惹かれて内容をチェックした」、「商品のデザイン性が高く、生活にいろどりが生まれる」などの回答が多く寄せられていました。

業界全体では「基本的な機能が安心して使えるか」という点がユーザーが重要視するポイントとなっていました。

NPSベンチマーク調査の事例

業界共通で「製品の機能面」がロイヤルティの源泉であることには変わりはないものの、他者との比較によって「デザイン」について強化していくことが新たな顧客層の獲得につながる可能性があると分かりました。また、「使いやすさ」の面では使用者からの評価が高いため、より使用体験が伝わるプロモーションに変える必要があるのではないかという仮説を立てました。

また、ロイヤルカスタマーが持っている「ブランドイメージ」にも注目した結果、「デザイン」や「独自性」などの機能面ではない情緒的な価値を評価していることが分かりました。

この結果を受け、主に20-30代の若い世代に評価されるデザインや日常的に使いやすい操作性を強化していく方針を採用しました。また、実際に使用するイメージが伝わるプロモーションなどを行い、ブランド戦略に活かしています。
このように、ベンチマーク調査では自社ユーザー調査だけでは分からなかった、市場全体のニーズや、新規ユーザー獲得のためのヒントを得ることができます。

NPS®️ベンチマーク調査を実施して、CXMの推進と競争力の強化に役立てましょう

NPSベンチマーク調査を取り入れることは戦略のCXMの推進を強力に後押しします。
業界全体での自社のロイヤルティの立ち位置や他社との差別化要因を探るなどの目的があれば、取り組みを始めることをお勧めします。
ただし、ベンチマーク調査は「どのようなサンプルを集めるか」など自社のユーザー調査とは異なる事柄を考慮して推進する必要があります。

エモーションテックでは、NPSを活用したベンチマーク調査のご相談を随時お受けしております。
NPSベンチマーク調査の実施にご関心がおありでしたら、是非エモーションテックにご相談ください。

競合ベンチマーク調査パッケージプラン:サービス紹介【資料あり】

NPS®️ベンチマーク調査の資料をダウンロード

エモーションテックでは、ベンチマーク調査にご活用いただける調査プランを提供しております。
本サービスの詳細な内容、料金については、以下のサービス資料にてご確認いただけます。
ぜひご覧ください。

個人情報の取扱いについてはこちらからご確認ください。

よく読まれているコラム

すべてのコラムを見る

直近のセミナーイベント

セミナーをもっと見る