生成AIを活用した音声解析で実現するコールログ分析と業務改善
更新日:2025.03.25


梅川 啓
株式会社エモーションテック Marketing Manager
複数企業の事業責任者を歴任したのち、2020年よりエモーションテックにCXコンサルタントとして参画。製薬会社や金融機関、化粧品メーカーのNPSプロジェクトやCXマネジメントの支援に携わる。2022年よりマーケティングに従事し、各種セミナーやイベントに登壇。
近年、コールセンター業界では、通話内容を記録した#コールログを活用して業務改善を図る取り組みが注目を集めています。コールログは企業にとって貴重な顧客接点のデータであり、そこに蓄積された情報はVOC(Voice of Customer = #VOC)として大きな価値をもたらします。特に、通話録音データを詳細に解析できる生成AIの登場は、これまで手作業では難しかった深い洞察や自動化を可能にし、対応品質の向上やコスト削減など多方面で成果を上げています。
目次
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コールログ分析の重要性
コールセンターでは日々大量の通話データが蓄積されています。従来は記録目的で保存されていたこれらのデータが、今や顧客の生の声(#VOC)を反映した貴重な情報源として再注目されているのです。
コールログを分析するメリットとして、以下のようなポイントが挙げられます。
- 顧客満足度向上(#顧客満足):顧客が何を求め、どこに不満を感じているかを正確に把握し、サービス改善に活かせる。
- コスト削減:再発クレームや重複問い合わせの削減施策を打ち出すことで、運営コストを下げられる。
- 業務効率化:問い合わせパターンを可視化し、オペレーターのマニュアル・スクリプトを最適化することで対応時間を短縮。
しかし、コールログは1件あたりの通話時間が長く、テキスト化するだけでも膨大な作業が必要です。そこで近年、生成AIを活用し、音声認識から自動的にテキスト化・分析までを効率的に行うアプローチが注目を集めています。 また、これらの分析結果を顧客満足度向上やサービス改善へ直接反映させる動きが広がっています。
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生成AIを活用した音声解析の仕組み
生成AI(Generative AI)は、従来のルールベースのAIと比べて自己学習能力に優れており、高度な言語理解・文章生成などが可能です。コールログ分析の手順は大まかに以下の通りです。
- 音声認識:通話の録音データをテキスト化(STT)する。
- 自然言語処理(NLP):テキスト化された会話をキーワード抽出、感情分析、要約など様々な観点で解析する。
- 要約・可視化:膨大なテキスト情報を重要ポイントに絞り、ダッシュボードなどで可視化する。
特に生成AIによる音声解析では、以下のような機能が注目されています。
- 感情分析:声のトーンや言葉遣いから顧客の怒り・不満・満足などを推定し、トラブルの深刻度を定量化。
- キーワード抽出・話題分類:通話内容の中で頻出する重要語句を抽出し、問い合わせのカテゴリやクレームの種類を自動で分類。
- 話者分類:顧客とオペレーターの発話部分を明確に分け、それぞれの言い分を精密に分析。
- 自動要約:長い通話ログから重要ポイントを抽出・要約し、レポート作成を効率化。
これらを正確に行うには、高精度の音声認識エンジンやノイズ除去機能、さらにAI学習モデルのチューニングが欠かせません。特に専門用語の多い業界や独自の言い回しがある企業の場合は、自社データを活用しモデルを最適化することで分析精度を高められます。

コールログ分析を活用した業務改善
生成AIを活用した音声解析によるコールログ分析を導入すると、コールセンターの運営改善に大きなインパクトを与えます。代表的な活用例をまとめました。
応対品質向上のためのフィードバック自動化
AIが通話内容を解析し、NGワードや不適切な表現の使用などを検出すると自動的に管理者へアラートを送る仕組みを導入すれば、問題箇所をピンポイントで把握できます。また、顧客の怒りや苛立ちを示す感情スコアが高まった際にリアルタイムで通知すれば、上席者によるフォローや早めの対応が可能です。
オペレーターの教育とスキルアップ支援
過去の通話録音をテキスト化し、良い応対・悪い応対の事例をAIがピックアップすることで、研修教材を迅速に準備できます。さらに、対話シミュレーション機能を使えば、新人オペレーターが仮想顧客とのやり取りを通して実践的に学習可能です。また、通話中にAIが必要な情報やFAQを画面に表示する支援機能を備えたシステムも増えており、オペレーターのスキルを底上げするのに有効です。
業務効率化とコスト削減施策
自動要約機能を使うことで、アフターコールワーク(ACW)の作業時間を削減できます。たとえばオペレーターが通話終了後に履歴作成を行う際、AIが自動生成した要約や重要ポイントを参照して、手間を大幅に省けます。また、頻出する問い合わせ内容を分析してFAQの整備やチャットボットへの回答連携を進めれば、対応コストの削減や顧客の自己解決率向上にもつながります。
顧客満足度向上のための対応策強化
顧客満足度を高めるためには、顧客が本当に求めていることを正しく把握する必要があります。コールログには多様な声が含まれており、そこから潜在的なニーズや不満要因を抽出して改善策につなげれば、サービス全体の品質が底上げされます。さらに、リアルタイムの感情分析により、クレーム対応を素早く上席者へエスカレーションするなど、機動力ある顧客対応が実現します。
具体的な企業事例と導入事例
では、実際にコールログ分析や生成AIを導入し成果を上げている企業の例を確認してみましょう。
損害保険ジャパン:大規模災害時の問い合わせ急増に備え、NTTのAIソリューションを導入。災害時でも顧客を待たせない体制を構築し、1時間あたり最大3,000件の問い合わせを受け付け可能になったとの報告があります。BCP強化の一環として、AIコールセンターシステムを積極的に活用しています。(参考)
ソフトバンク株式会社:問い合わせへの回答を均質化し、待ち時間を短縮するために、マイクロソフトの大規模言語モデルを活用。生成AIが問い合わせ内容を理解し、社内データベースと連携して適切な回答候補を提示する仕組みを構築。結果、顧客対応の品質向上やオペレーターの負荷軽減が期待されています。
トランスコスモス株式会社:BPO大手として多数のコールセンターを運営。生成AIのナレッジ検索システムを導入して難易度の高い問い合わせ対応を効率化。エスカレーション件数を大幅に削減できる見込みがあると発表し、オペレーターがその場で問題解決を行うケースが増加しているそうです。(参考)
いずれの事例からも、顧客の声をいかに素早く正確に捉え、対応へ活かすかが大きなポイントになっていることがわかります。コールログを効率的に分析できる強力なツールとして、生成AIの導入が進んでいるのです。
導入する際のポイントと注意点
生成AIによるコールログ分析を導入する場合、以下のような項目を事前に検討するとスムーズです。
コストとROIの見極め
AI導入にはシステム費用や音声認識エンジン利用料、導入工数など多額のコストが必要です。まずは、要約自動化による作業時間削減やクレーム減少によるコスト削減効果などを具体的に試算し、投資対効果(ROI)を見極めましょう。ある大手企業では、FAQ作成工数を75%削減し得るといった試算もあり、比較的わかりやすい領域からスモールスタートするケースが増えています。
データプライバシーとセキュリティ対策
個人情報が含まれる通話録音データを扱うため、データの取り扱いには注意が必要です。クラウド型AIを利用するなら、データ送受信時の暗号化やローカル環境での解析、個人情報のマスキング機能など、セキュリティ対策の有無をしっかり確認しましょう。プライバシー保護法制(日本国内では個人情報保護法やEUのGDPRなど)への対応も重要なチェックポイントです。
システム統合と既存システムとの連携
AIの音声解析結果を、CRMなどの既存システムに連携して活用できると利便性が大きく向上します。たとえば、解析結果を自動で顧客履歴に紐づけ、問い合わせ内容やクレーム履歴を一元管理する、といった運用が可能です。システム間のAPI整備やデータフォーマットの調整、オペレーターへの研修など、導入前の準備を入念に行うとスムーズです。
AIのブラックボックス問題と運用体制
生成AIの分析結果は高精度な反面、どのような根拠でそう判断したのかが分かりにくい場合があります。クレーム対応など、万が一の誤判断で顧客体験を損ねるリスクもあるため、AIと人の分業を適切に設計しましょう。感情に強く配慮が必要な対応は人が担当し、定型的なFAQ回答やデータ分析はAIが行う、といった切り分けも有効です。社内での責任範囲の明確化も重要です。
こうしたポイントを踏まえながら進めることで、生成AIの恩恵を最大限に享受しながらリスクを最小化することが可能です。特にビジネスインパクトの大きい領域への優先導入と、社内外のセキュリティルール遵守が成功への鍵となります。
まとめ
コールセンターに蓄積される膨大なコールログを、高度な生成AI音声解析で効率的に分析し、そこから得た洞察をもとに応対品質や業務効率を高める動きは今後さらに加速していくと考えられます。
従来の「録音するだけ」で終わっていた運営から一歩進み、顧客の声をダイレクトに経営やサービスへフィードバックしていけば、顧客満足度の向上・コスト削減・業務効率化を同時に実現できるでしょう。
導入にあたっては、ROIの把握やデータセキュリティ対策、既存システムとの連携など注意点もありますが、綿密な準備と段階的な導入によって成功事例が着実に増えています。
コールセンター運営担当者やBPO企業にとって、強力な音声解析技術と生成AIを活用することは、競争力向上や顧客体験のさらなる洗練に不可欠な要素になりつつあります。
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