VoC(顧客の声)を品質保証に活かす方法 | 株式会社エモーションテック

VoC(顧客の声)を品質保証に活かす方法

更新日:2025.03.14

このコラムの執筆者
梅川 啓

株式会社エモーションテック Marketing Manager 

複数企業の事業責任者を歴任したのち、2020年よりエモーションテックにCXコンサルタントとして参画。製薬会社や金融機関、化粧品メーカーのNPSプロジェクトやCXマネジメントの支援に携わる。2022年よりマーケティングに従事し、各種セミナーやイベントに登壇。

品質保証(QA:Quality Assurance)とは、製品やサービスが所定の品質基準や顧客の要求を満たすように計画・管理し、不良や欠陥の発生を防止するための活動を指します。具体的には、製造ラインや開発工程の設計、検査・テストの実施、品質マネジメントシステム(QMS)の運用など、多岐にわたる業務を行います。品質保証は企業にとって「不良を見つける」のではなく「不良を出さない仕組みを作る」ことが重要な役割であり、その成果が企業の信頼性を高める大きな要因となります。

近年は単なる製品検査や社内基準の確認だけではなく、顧客視点での品質管理が重視されています。その一環として注目されているのが、VoC(Voice of Customer:顧客の声)の活用です。顧客からの意見や要望、クレーム情報は、製品・サービスを改善するためのヒントの宝庫であり、品質保証部門が積極的に活用することで、企業全体の顧客満足度(CS)向上やNPS(Net Promoter Score)向上にもつなげられます。

品質保証の仕事におけるVoCの重要性

品質保証における最大のゴールは、顧客が「この製品(サービス)は自分の期待を十分に満たしている」と感じる品質を維持・向上することです。企業内部でいくら「高品質」と思っていても、実際に製品を使う顧客が使いにくさや不具合を感じるなら、それは実質的に「品質が十分でない」状態といえます。顧客の声には、まさに「顧客が本当に欲している品質」が如実に表れます。

例えば品質保証業務において、顧客の声を活用すると次のようなメリットが考えられます。

  1. 品質の「本質」を把握できる: 社内基準や社内視点だけでは発見しづらい使い勝手や心理的満足度といった、より顧客目線での品質指標が明確になる。
  2. 潜在的な不具合やクレームの早期発見: 複数の顧客が共通して訴える小さな不満でも、早めに対策しないと重大事故やリコールに発展する可能性がある。
  3. ブランドイメージ・企業信頼度の向上: 顧客の声を真摯に受け止め改善を行う姿勢は企業イメージを高め、顧客ロイヤルティ(NPS)向上に寄与する。
  4. 製品開発サイクルの効率化: 顧客が求める仕様や機能を早期に把握して次世代製品・サービスに反映でき、無駄の少ない開発が可能。

トヨタ自動車の有名な教えに「お客様の叱声はカイゼンの宝の山」という言葉があります。これは「顧客がわざわざ苦情を言ってくれるのは、まだ企業への期待がある証拠であり、品質をより良くする重要なヒントである」という考え方です。実際、この教えは日本の製造業だけでなく、サービス業やIT業界など幅広い分野でも大切にされています (参考:TOYOTA TIMES(公式))。

VoC(顧客の声)の主な収集方法

顧客の声は多種多様なチャネルを通じて企業にもたらされます。品質保証の責任者としては、以下のような方法で幅広く情報を集める仕組みを用意することが重要です。

アンケート調査

製品購入後やサービス利用後に実施する満足度アンケートは、もっとも一般的な方法です。例えばオンラインフォームやメール、QRコードを活用して簡単に回答できるようにすることで回答率の向上を図れます。顧客満足度を定量評価(例:5段階評価)するだけでなく、自由記述欄を設けて具体的な意見や改善要望を集めるのがポイントです。

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NPS調査

「あなたはこの製品(サービス)を知人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問で顧客ロイヤルティを測定する手法であるNPS (Net Promoter Score)は、グローバル企業を中心に広く採用されています。定量スコア(0~10点)だけでなく、なぜその点数をつけたのかという理由を自由記述で尋ねることで 「良いと思った点・悪いと思った点」を具体的に把握できます。

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カスタマーサポート・お問い合わせ窓口からの情報

コールセンターへの電話やメール、チャットサポートへの問い合わせ対応などは、顧客の生の声を得るうえで非常に重要なチャネルです。苦情やクレームはもちろん、不具合情報、要望、操作方法の質問など多岐にわたります。これらの応対ログ(通話録音やメール本文)をテキスト化してデータベース化することで、後述のテキストマイニングに活用できます。

SNS分析(ソーシャルリスニング)

顧客は必ずしも企業に直接フィードバックするとは限りません。TwitterやFacebook、InstagramといったSNS上に投稿される口コミをモニタリングすることで、企業が気づいていない潜在的な不満や意見を発見できます。特定の製品名やブランド名に対する言及を自動収集し、ポジティブ・ネガティブの分析(センチメント分析)を行うアプローチが一般的です。

ECサイトや口コミサイトのレビュー

Amazonや楽天市場、価格.comなどのレビュー欄、App StoreやGoogle Playなどのアプリレビューも貴重なVoCです。星評価やコメントから、製品・サービスの強みや弱みを定性的に把握できます。複数のサイトを横断的にチェックすることで、より広い顧客層からの意見を収集できるでしょう。

テキストマイニングによる抽出

問い合わせ記録やSNS投稿、レビュー、アンケートの自由記述欄など、膨大なテキストを人力で分析するのは手間と時間がかかります。そこで、テキストマイニング技術を使って自動的にキーワードの出現頻度や感情分析を行い、傾向を可視化する方法が注目されています。たとえば「壊れた」「エラー」「動かない」などの言及が多ければ、品質上の不具合が隠れている可能性が高いと推定できます。

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VoCの分析手法:定量と定性の両面から

収集したデータを「どのように分析するか」が品質保証の成否を分ける大きな鍵です。分析手法には、大きく分けて定量的アプローチと定性的アプローチがあります。両者を適切に組み合わせることで、より精緻な品質改善が期待できます。

定量分析:分類・頻度・時系列・NPSなど

  • カテゴリ分類: 顧客の声を「操作性」「耐久性」「デザイン」「価格」「カスタマーサポート」などのカテゴリに仕分けし、どのカテゴリの不満や要望が多いかを把握します。
  • 出現頻度分析: テキストマイニングを活用してキーワードの出現回数や共起関係を調べ、どのワードが顧客の不満点を象徴しているかを特定します。
  • 時系列分析: 製品リリース前後やキャンペーン時期によるクレーム数・問い合わせ数の推移を調べ、施策の効果や新たな問題発生を監視します。
  • NPSスコア分析: NPS調査で集まったスコアの分布(推奨者・批判者の割合)を追跡し、改善施策前後の顧客ロイヤルティ変化を測定します。

定性分析:内容の深掘りと原因追求

定量データだけでは明らかにできない「なぜそうなっているのか」という理由を探るために、定性分析が有効です。

  • 内容の分類・タグ付け: クレームの背景や発生状況などを詳しく読み込み、タグ付けやコメントを加えて整理します。
  • 感情分析(センチメント分析): テキストマイニングでポジティブ・ネガティブを自動判定し、ユーザーの心理的側面を把握する。
  • 原因究明(Why分析): 「なぜその不満が生まれるのか」を掘り下げ、例えば製造工程や設計仕様、ドキュメント不足など根本原因を特定する。

品質保証部門では、分析によって得られた課題を開発や製造、生産管理、マーケティングなど関連部署に共有し、その課題が最も影響する部門やプロセスで改善策を立案していきます。さらに改善後も継続的にVoCデータを追跡し、施策の成果や新たな不満点をチェックすることでPDCAを回すことが肝要です。

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VoC分析とは?(Voice of Customer)の重要性と効果的な実施方法

VoCを品質保証に活かす具体的なポイント(業種別)

ここからは、具体的にVoCをどのように品質保証業務へ組み込み、品質向上に活かしていくかを業種別に見ていきましょう。コールセンターだけでなく、製造業、ソフトウェア、医療機器、食品業界など幅広いケースをご紹介します。

製造業での活用

製造業では、市場クレーム情報を品質保証に活かすことが重要です。出荷後、納入先や最終ユーザーから寄せられる不具合報告やクレームを「市場不良データ」として集約し、件数や内容を可視化する仕組みを整えましょう。

  • 是正措置・予防措置(CAPA): クレームが一定数を超えた製品に対して、品質保証部門が率先して原因調査と再発防止策の立案を行う。
  • サプライヤーとの連携強化: 不具合要因が部品や原材料の品質にある場合、サプライヤーにデータを共有し、協力して改善活動を行う。 例えば部品の素材変更や製造プロセスの見直しなど。
  • 品質機能展開(QFD): 新製品開発段階で顧客要望を設計仕様に落とし込む手法。QFDの解説(日本科学技術連盟) 「市場の声」を設計目標として明確化し、発売後のクレーム減少や満足度向上を狙う。

ソフトウェア業界での活用

ソフトウェアはアップデートやパッチ提供がしやすい特性があり、顧客の声をダイレクトかつスピーディに製品品質へ反映できる利点があります。

  • アジャイル開発・DevOps: 不具合報告(バグレポート)や機能要望(フィーチャーリクエスト)をトラッキングツールで管理し、 スプリントごとに開発とテストを繰り返しながら改善を迅速に反映。
  • ユーザーコミュニティからのフィードバック: 公式フォーラムやβテストプログラム(例:Windows Insider)などでユーザーの意見を広く収集し、 大量のVoCをテキストマイニングで仕分けて優先度を評価。
  • UI/UX改善: 「使いにくい」「操作がわかりにくい」といった声は、品質保証部門がUIテストやユーザビリティ検証の観点から開発チームにフィードバック。

医療機器業界での活用

医療機器は安全性と有効性が最も重視され、国際規格(ISO 13485など)や各国の規制当局(FDAなど)により 市場からの苦情や不具合報告を厳格に扱うことが義務づけられています。

  • 苦情是正システム(クレームハンドリング): 不具合報告を受けたら速やかに事実確認・原因調査を行い、是正措置と再発防止措置を文書化して当局に報告する。
  • 市販後調査(Post-Market Surveillance): 実際の使用現場(病院やクリニック)から定期的にフィードバックを収集し、操作性・安全性・耐久性などを継続評価する。
  • リコール対応: 重篤な不具合が発覚した場合には、迅速に製品回収や修理対応を行い、使用者や患者に周知すると同時にルート原因を追求。

食品業界での活用

食品は口に入るものであり、異物混入や品質表示ミスなどのクレームは企業の信用を大きく左右します。そのため、顧客の声を「安全・安心」へ直結させる重要性が極めて高いといえます。

  • お客様相談室の充実: 電話やWebフォームで寄せられる声を、製造ライン・開発・品質保証へ即座に共有する仕組みを作る。
  • パッケージ改良や味の調整: 「開封しにくい」「表示が小さすぎて読めない」「味が薄い」などの意見を新製品開発や既存製品リニューアルに反映する。
  • 安全管理体制の強化: 異物混入の報告があった場合は、原材料から製造工程・出荷ラインまで遡って点検し、再発防止策を徹底する。

成功事例:VoCを活かした品質改善の実際

食品業界の事例:味の素株式会社

食品メーカー大手の味の素では、「お客様の声は企業にとって大切な財産」と位置付け、顧客から寄せられた問い合わせやクレームを即日データベース化し、翌日には関係部署に開示する仕組みを構築しています。こうした仕組みにより「ソースが出にくい」「容器が開けにくい」といった声をもれなく拾い、改良品の開発やパッケージ設計変更に迅速に反映しているとのことです。
結果として、顧客満足度の向上だけでなく、ブランド価値の維持にも寄与しており、長期的に安定した市場シェアを確保しています。

参考:味の素 お客様対応事例

製造業の事例:サプライヤー連携でのクレーム削減

ある製造業の企業(D社)は、食品工場向け装置の品質クレームが頻発していました。そこで過去数年分のクレームデータを分析し、特定のサプライヤーに部品不良が集中していることを発見しました。品質保証部門がサプライヤーと共同チームを結成し、不良品分析の結果を共有しながら改善策を考案。部品の材質変更や製造プロセスの見直しを行うことで、全体クレーム件数が35%減、特に問題の多かった仕入先では45%減という大幅な成果を上げました。こうした活動により、D社は顧客(工場)からの信頼度を高めるとともに、不良対応コストも大幅に削減できたそうです。

参考:Supply Chain Managementにおける品質向上事例 英語

医療サービスの事例:Intuitive Health(NPSスコア81)

米国の医療サービス企業Intuitive Healthでは、24時間以内に患者へNPSアンケートを送付し、回答が低評価(不満足)だった患者には即日フォローアップを行うという仕組みを導入しました。この取り組みにより、患者の不満点を早期に察知して改善できるようになり、最終的にはNPSスコア81(医療業界の平均はおよそ58前後と言われる)という高水準を達成しました。

参考:Forbes NPS in Healthcare 記事(英語)

ソフトウェア業界の事例:ユーザーコミュニティを活用

ソフトウェア企業マイクロソフトでは、Windows Insider Programを通じてβ版を配布し、世界中のユーザーから不具合報告や改善提案を受け付ける仕組みを整えています。この大量のフィードバックを品質保証部門と開発部門が協力して分析することで、正式版リリース前に数多くのバグを修正し、製品品質を大幅に向上させることに成功しました。日本国内の中規模ソフトウェア企業でも、ユーザーコミュニティサイトを設置し、要望を投票形式で集めて優先度を決めることで、ユーザーにとって必要度の高い改修をスピーディに実行し、顧客満足度向上と解約率(チャーン)の低減を実現したケースが報告されています。

参考:Windows Insider Program(英語)

まとめ:品質保証×VoCが生む持続的な品質向上

ここまで、品質保証の業務におけるVoC(顧客の声)の活用方法を、導入・分析手法・業種別のポイント・成功事例に分けて解説してきました。顧客からの声は、ときに企業にとって痛烈な批判やクレームであることも少なくありません。しかし、そうしたフィードバックこそが品質を飛躍的に高めるための「宝の山」であり、VoCを的確に収集・分析・改善に結び付ける企業は、長期的に顧客満足度とブランド価値を高め続けることができます。

本記事で紹介したように、「コールセンター」「アンケート」「NPS」「SNS」「レビュー」「テキストマイニング」など、さまざまな手法で顧客の声を集め、定量・定性の両面から分析したうえで、品質保証のプロセスに組み込みましょう。不具合発生後のクレーム対応だけでなく、開発・設計初期の段階から顧客の要望を取り入れることで、より「顧客目線」に立った品質を作り込むことが可能です。

さらに、分析結果を単に社内で共有するだけでなく、実際の顧客にも「あなたの声をもとに改善しました」とアピールすると、「自分の声が企業に届いている」という安心感が生まれ、NPSなどのロイヤルティ指標も上昇する傾向があります。「品質の最終的な審査員は顧客である」というデミングの言葉が示すように、品質保証の仕事は「社内の品質基準を守る」だけでなく、「顧客の声に基づいて品質を継続的に高める」役割を担う重要なミッションです。

今後もIoTやAI技術の進展により、顧客からのフィードバック取得はさらに多様化・リアルタイム化が進むと予想されます。そうした環境の中で、品質保証部門が主体的にVoCを取り込み、製品・サービスの価値向上を牽引していくことこそが、企業の競争優位を築くカギとなるでしょう。「顧客の声を品質向上の原動力にする」視点を強化し、ぜひ貴社の品質保証活動をさらに進化させてみてください。

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