VoCデータをテキストマイニングで分析する方法 | 株式会社エモーションテック

VoCデータをテキストマイニングで分析する方法

更新日:2025.03.14

このコラムの執筆者
梅川 啓

株式会社エモーションテック Marketing Manager 

複数企業の事業責任者を歴任したのち、2020年よりエモーションテックにCXコンサルタントとして参画。製薬会社や金融機関、化粧品メーカーのNPSプロジェクトやCXマネジメントの支援に携わる。2022年よりマーケティングに従事し、各種セミナーやイベントに登壇。

近年、多くの企業が「顧客の声(VoC:Voice of Customer)」を活用し、顧客体験(CX)向上や製品・サービスの改善、ブランドロイヤルティの向上に役立てようとしています。VoCを体系的に収集し、そこから真の課題やニーズを的確に把握するための手法として一般的なのが「テキストマイニング」です。従来、アンケートやコールセンターの音声データ、SNS上の投稿など、定性情報は「個別に分析するには時間がかかる」「データ量が膨大で抽出が難しい」という問題がありましたが、テキストマイニングによってその壁を突破することが可能になっています。

とはいえ、テキストマイニングの導入・運用には、分析ツールや分析手法の選定、社内体制の構築など、いくつかのハードルが存在します。そこで本記事では、以下の内容を包括的に解説します。

VoCをテキストマイニングする重要性

企業の顧客接点は、店舗やコールセンターだけでなく、SNSや口コミサイト、チャットボットなど、多岐にわたります。多様なチャネルから寄せられる「顧客の声」は企業にとって非常に重要な経営資源ですが、量が膨大であるがゆえに、「一度にすべてを分析するのは難しい」「テキスト情報を体系的に可視化できない」といった課題が存在してきました。

この課題を解決したのがテキストマイニングです。テキストマイニングとは、大量のテキストデータに含まれるパターンやトレンド、感情の傾向などを数値化・可視化することで、人間のリソースだけでは捉えきれない洞察を得る手法を指します。たとえば、製品に対するクレームが多い特定の要因を発見したり、SNS上での評判がどのように変遷しているかを捉えたりと、定性的な情報を定量化することで、より精度の高い課題抽出と意思決定につなげることが可能です。

大手企業においては顧客接点が広範囲にわたるため、VoCの収集量も膨大となりがちです。その中でテキストマイニングを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。

  • 顧客の潜在ニーズや感情を把握:アンケートだけでは見えない顧客の本音や感情を深掘りし、サービスや製品の改善につなげる。
  • 顧客満足度やロイヤルティの向上:具体的な問題点を迅速に特定し、改善策を打ち出すことで顧客ロイヤリティを高める。
  • データドリブンな意思決定:定性的なフィードバックを定量化することで、経営層の意思決定をより的確にサポートする。
  • 部門間の連携強化:VoC分析結果を共有しやすい形で可視化すれば、マーケティング部門や商品開発部門とスムーズに連携しながら施策を打ち出せる。

関連記事:
VoC分析とは?(Voice of Customer)の重要性と効果的な実施方法

VoCをテキストマイニングするための下準備

VoCの収集チャネルを整理する

まずは、どのチャネルからどのように顧客の声を収集しているかを整理しましょう。例えば以下のようなチャネルが考えられます。

  • コールセンターの通話録音や応対履歴
  • 顧客満足度やNPSアンケート(自由記述欄含む)
  • SNS(Twitter、Facebook、Instagramなど)の投稿
  • メールやチャットによる問い合わせ
  • 口コミサイト(価格比較サイト、レビューサイトなど)
  • オンラインコミュニティやフォーラム

これら複数チャネルからVoCを取得し、テキストデータとして統合するための仕組みを確立することが重要です。特に大手企業の場合、部門ごとに異なる方法で顧客の声を集めているケースが少なくありません。そのため、「どこにどんなデータが蓄積されているのか」をまず把握し、データの統合性やフォーマットを整えるところから始める必要があります。

テキストの前処理・クレンジング

テキストマイニングにおいて、データの前処理やクレンジングは欠かせないステップです。以下のような作業が含まれます。

  • ノイズの除去:HTMLタグや記号、URLなど、分析対象として不要な情報を取り除く。
  • 正規化:全角・半角の統一や、異体字表記の統一などを行う。
  • 分かち書き・形態素解析:日本語の場合、分かち書きや形態素解析エンジンを用いて単語に分割し、品詞を特定する。
  • ストップワードの処理:「です」「ます」「する」など分析に寄与しない単語を除外し、データ量を減らす。
  • 固有名詞・専門用語の登録:自社の商品名や専門用語がある場合は、辞書に登録しておく。

これらの前処理をきちんと行うことで、後に行う分析の精度が大きく変わってきます。実際、多くのデータサイエンティストやCXコンサルタントは、分析に費やす時間の中で前処理の比重が非常に高いと指摘しています。前処理が不十分だと、得られた分析結果そのものがノイズまみれになり、効果的な施策につながらない可能性があります。

分析目的の明確化

テキストマイニングを行う前に、「何を分析したいのか」「得られた知見をどのように活用したいのか」を明確にすることが大切です。目的設定が曖昧なまま分析をはじめると、膨大な結果に振り回されてしまい、結局どの施策も実行できずに終わる恐れがあります。たとえば、以下のように目的を定義しておくとよいでしょう。

  • ネガティブなコメントが多い要因を特定し、製品開発に反映する
  • ロイヤルカスタマーの声を深堀りし、エンゲージメント向上施策を立案する
  • 顧客セグメントごとに特徴的なキーワードや感情傾向を調べ、新規キャンペーンに反映する

目的が明確であれば、必要なデータの範囲や分析アプローチ、そして成果物の提示方法も明確になります。また、目的に即したKPIを設定し、分析結果を定期的にモニタリングする仕組みづくりも重要です。

テキストマイニングの主要手法と分析の流れ

1. 感情分析(センチメント分析)

感情分析は、テキストに含まれるポジティブ・ネガティブ・ニュートラルといった感情の極性を数値化し、可視化する手法です。ツールによっては、より詳細な感情カテゴリー(喜び、悲しみ、怒りなど)に分類できるものもあります。SNSの投稿やアンケートの自由記述欄から、製品やサービスに対する肯定・否定的な感情を把握し、どのような要因でポジティブにもネガティブにもなるのかを深堀りする際に有効です。

  • 顧客ロイヤルティの向上施策:ポジティブな感情を高めるには、具体的に何が評価されているのかを特定する。
  • クレーム対応施策:ネガティブの割合が多い場合、どの部分が不満の主因になっているのかをフォーカスする。

2. トピックモデリング

トピックモデリングは、膨大なテキストデータから潜在的に含まれるトピック(話題のクラスター)を自動的に抽出する手法です。代表的なアルゴリズムとしてLDA(Latent Dirichlet Allocation)などがあります。たとえば数万件規模のアンケート自由記述欄がある場合に、それらがどのような話題に分類されるかを自動でグルーピングして可視化することができます。

  • 多岐にわたる意見の把握:あらかじめ想定していなかったテーマや潜在的な課題を発見できる。
  • 優先度付け:話題ごとの出現頻度や感情スコアなどを組み合わせることで、どのトピックを優先的に対処すべきかを決定する。

3. ワードクラウド・キーフレーズ抽出

テキストの中で頻出する単語やフレーズを可視化する方法です。ワードクラウドとして単語を視覚的に表示することで、どんなキーワードがよく言及されているかを直感的に把握できます。またキーフレーズ抽出を行えば、「顧客がどんな文脈でその単語を使っているのか」「そのフレーズの前後関係はどうなっているか」を深く理解することができます。

  • SNSや口コミサイトのざっくりとした印象把握
  • 新製品やサービスに対する頻出キーワードの整理

4. 類似度分析・クラスタリング

テキスト同士の類似度を計算し、クラスターを形成することで、似た内容をまとめる分析です。たとえば「料金に対する不満」と「支払い方法に対する不満」が類似度の高い文脈としてグループ化されることで、顧客が料金周りに抱えるストレスポイントを総合的に捉えやすくなります。

  • 問題領域の特定:共通点の多いクレームをまとめて一括で対策を検討できる。
  • ユーザーセグメントの可視化:顧客属性ごとにどのようなクラスターが形成されるかを見れば、セグメントの特徴を捉えられる。

関連記事:
テキストマイニングとは?生成AIによる進化についても解説

テキストマイニングツールの選び方と注意点

オンプレミスかクラウドか

テキストマイニングを行う際、ツール選択は非常に重要です。代表的な手段としては、オンプレミス型とクラウド型があります。

  • オンプレミス型:
    自社サーバーにソフトウェアを導入し、データを内部で処理する。セキュリティやカスタマイズ性では優位な反面、初期導入コストや運用負荷が高い傾向にある。
  • クラウド型:
    ベンダーのクラウド環境でテキスト分析を行う。導入が比較的容易で、初期費用も抑えやすい。ただし、自社要件に合わない部分がある場合や、データを外部に持ち出すことへのリスク評価が必要。

日本語分析への対応状況

グローバルベンダーの提供するテキストマイニングツールは英語の文書分析には強いですが、日本語における形態素解析や固有表現抽出への最適化が不十分な場合もあります。特に日本語は英語に比べて単語境界が明確でないため、形態素解析エンジンをきちんと組み込んでいるかどうかは大きなポイントです。導入前にPoC(概念実証)などで十分な精度が得られるか確認しましょう。

カスタマイズの柔軟性

自社独自の製品名やサービス名、業界特有の専門用語などを正しく認識しないと、分析精度が大きく低下する可能性があります。そのため、ユーザー辞書の追加登録や感情辞書の拡張など、カスタマイズ機能の柔軟性は重要です。また、UI上で簡単に調整できるのか、あるいはプログラムによる設定が必要なのか、といった運用面の確認も必要になります。

レポーティング・可視化機能

分析結果をレポートとして共有しやすい形式で出力できるツールが望ましいです。例えば、クラウド上でインタラクティブにレポートを作成し、リアルタイムで各部門に情報を共有できる仕組みがあると、CX部門の担当者としてはスピーディに改善提案を行えます。ダッシュボード機能やアラート機能などが備わっていると、分析結果に応じたアクションをタイムリーに起こしやすくなります。

テキストマイニング導入後の運用と組織体制

部門横断的なチーム編成

テキストマイニングの結果を最大限に活用するには、CX部門だけでなく、マーケティング部門や商品開発部門、コールセンターなど関連部署が連携して分析結果を活用することが重要です。部門間をつなぐハブとなる役割を担う人材を配置し、定期的にミーティングを開いて情報共有を行う体制づくりが求められます。

分析結果をアクションにつなげるプロセス

テキストマイニングによって得られるインサイトはあくまで「顧客の声を可視化・定量化したデータ」であり、それ自体が最終目的ではありません。得られた結果をもとに具体的な施策を立案し、実行し、効果を検証するという一連のPDCAサイクルを回すことで初めて成果につながります。たとえば、以下のプロセスを設定すると分かりやすいでしょう。

  1. 分析テーマの設定(例:新製品に対するネガティブ要因の特定)
  2. テキストマイニングを実施し、主要キーワードや感情スコアを解析
  3. 分析結果を踏まえて施策を提案・実施(例:製品仕様の変更、価格改定など)
  4. 施策の効果をモニタリングし、再度VoCを収集・分析
  5. 成果や課題をフィードバックして次の施策を検討

このサイクルを組織全体で回していくことで、顧客満足度やCXを継続的に高めていくことができます。

データの蓄積・メンテナンス

テキストマイニングで成果を出し続けるためには、常に新しいVoCを取り込み、データセットを更新し続けることが求められます。また、分析のための辞書や分析システムそのものも定期的にメンテナンスする必要があります。新しい製品がリリースされるたびに、固有名詞や専門用語を辞書に登録し、新規のネガティブワードやスラングなども取り込んでいくことで、精度が維持・向上されていきます。

テキストマイニング活用の成功事例と失敗例

成功事例:大手通信会社におけるチャーンレート低減

ある大手通信会社では、毎月発生する解約率(チャーンレート)を下げる目的でコールセンターの通話データをテキストマイニング分析しました。最初は漠然と「料金が高い」という理由だけに注目していたものの、分析の結果、「契約時の説明と実際の請求にギャップを感じている」という不満が大きな要因であることが判明しました。

同社はこの結果をもとに、契約プランの説明資料を全面的に見直し、コールセンターオペレーターのトレーニングを強化。また、Webサイト上でもプランシミュレーターを導入し、料金が明確に分かるよう改善を図りました。その結果、短期的に解約率が大幅に減少し、顧客満足度も向上したと報告されています。

失敗例:大量のデータを集めたものの組織に浸透しない

一方で、別の企業ではSNSやアンケートデータを大量に収集・分析したものの、結果が分かりづらく共有されなかったため、施策へ反映されなかったという失敗もあります。テキストマイニングのレポート結果がデータサイエンティストの間だけで完結してしまい、現場担当者や経営層に適切なタイミングで共有されず、アクションに結びつかなかったケースです。

このような事例を避けるには、分析段階から関連部門を巻き込み、可視化結果を誰でも理解しやすい形で提示すると同時に、組織として意思決定につなげるプロセスを明確にすることが重要です。

これからのテキストマイニングの発展

ここまで見てきたように、今日ではテキストマイニングは定性的なVoCデータから多くの示唆を得るための欠かせない手段となっています。

そして近年の生成AIの登場によりVoCデータの分析はさらに精度が高く、また効率よく実現できるようになってきました。従来のテキストマイニングでは十分に求める粒度の分析ができなかった場合でも、生成AIをうまく活用することでまさに「人が実行するのと同じように」VoCデータを捉えることが可能になっています。

特に生成AIは「文脈を読み取る」「感情を読み取る」「多言語でも対応できる」といった点において、従来のテキストマイニングよりも優れており、VoCデータの分析においてもうまく活用することで、さらなる顧客理解を促進してくれます。

FAQ(よくある質問)

以下に、VoCをテキストマイニングにかける上で頻繁に寄せられる質問とその回答をまとめました。ご参考にしてください。

Q1. テキストマイニングに適したデータ量の目安はありますか?

A1. 一般的には数百件程度では偏りが大きくなるため、数千件以上のテキストを分析するとより信頼性が高まります。ただし、質の高いデータであれば少量でも一定の傾向を把握できる場合があります。

Q2. 感情分析の精度はどの程度期待できますか?

A2. 使うアルゴリズムや辞書、業種・商品特性により異なりますが、概ね70~80%程度の精度を目安とすることが多いです。PoCで精度検証を行い、感情辞書のカスタマイズを行うことで向上させる余地があります。

Q3. テキストマイニングは他の分析手法と組み合わせた方がいいですか?

A3. はい、アンケートの定量データや売上データなどと組み合わせることで、より総合的なインサイトが得られます。テキストマイニングの結果をクロス集計することで、特定のセグメントが抱える問題点などを明確にできます。

Q4. フリーソフトウェアでも十分分析できますか?

A4. 分析テーマや要件次第ですが、オープンソースソフトウェアでも十分に活用できるケースがあります。ただし、サポート体制やセキュリティ要件を鑑みた上で慎重に検討する必要があります。

Q5. どのように社内で結果を共有するとよいですか?

A5. ダッシュボードや定期レポートなどの可視化ツールを活用し、意思決定者や関係部門に対してタイムリーに情報を共有することが重要です。部門横断のミーティングを定期的に開催し、結果を施策に結びつけるプロセスを整備するとよいでしょう。

まとめ

VoCをテキストマイニングにかけることで、顧客の本音や真の課題を定量的に把握し、顧客体験(CX)の向上を図ることができます。ただし、成功するにはデータの収集からツールの選定、分析の実施、組織体制の構築まで、一連のプロセスを戦略的に考え、PDCAサイクルを回し続ける必要があります。大手企業であれば部門間連携の複雑さもあるため、トップダウンでの推進力とボトムアップでの実務連携をうまく組み合わせ、継続的な改善活動を行う体制が求められます

また、生成AIの登場によりVoCデータの分析はさらなる進化を遂げるようになっています。最新動向をキャッチアップしながら、必要に応じて分析アプローチやツールを最適化していく姿勢が、顧客志向の企業文化を醸成する一歩になるでしょう。

今後、5G・IoTの普及とともに顧客接点がさらに多様化していくことが予想されます。そこから生み出される膨大なVoCを活用できるかどうかが、CX向上の鍵を握ると言っても過言ではありません。テキストマイニングの導入を機に、ぜひデータドリブンな組織文化を育み、顧客と企業の関係性をより良い方向へと導いていただきたいと思います。

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