顧客視点とは何か?その重要性と具体的な実践方法を徹底解説
更新日:2025.02.27


梅川 啓
株式会社エモーションテック Marketing Manager
複数企業の事業責任者を歴任したのち、2020年よりエモーションテックにCXコンサルタントとして参画。製薬会社や金融機関、化粧品メーカーのNPSプロジェクトやCXマネジメントの支援に携わる。2022年よりマーケティングに従事し、各種セミナーやイベントに登壇。
ビジネスの現場で「顧客視点が大切だ」と言われることは珍しくありません。しかし、実際に「顧客視点とは何を意味し、どのようにビジネスに取り入れればよいのか」が明確になっていない企業も多いのが現状です。顧客視点を理解していないままでは、製品やサービスを提供する際、企業都合の施策に偏ってしまい、期待するほどの成果が得られない可能性があります。
本記事では、「顧客視点とは何か?」という基本的な定義から、なぜ重要視されるようになったのか、そして実際に企業が顧客視点をビジネスに落とし込むためのプロセスや成功事例までを幅広く解説します。顧客との長期的な信頼関係を築きたい、商品やサービスの改善に顧客の声を活かしたい、という企業にとって必読の内容です。
目次
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1. 顧客視点とは?
1-1. 顧客視点の定義
「顧客視点」とは、文字通り「顧客の目線に立って、物事を考えること」を指します。従来型のビジネスでは、企業側が「この製品を売りたい」「このサービスを広めたい」という企業都合を優先してマーケティングや商品開発を進めるケースが一般的でした。しかし、顧客視点を重視する企業では、顧客が求める価値、顧客が抱える課題やニーズを出発点に、製品やサービス、プロモーション、カスタマーサポートなどを設計・改善していきます。
顧客視点を持つと、企業側が見落としがちな「顧客の本音」や「潜在ニーズ」に気づきやすくなることが特徴です。例えば、見た目が華やかでスペックが高い商品でも、実際の使い勝手が悪ければ顧客満足度は上がりませんし、顧客が本当に欲しいものとはかけ離れているかもしれません。そうしたミスマッチを避け、顧客にとっての本当の価値を提供するアプローチこそが、顧客視点と言えるのです。
1-2. 「企業視点」との違い
顧客視点と対比される概念として、「企業視点」が挙げられます。企業視点では、売上・利益・生産性といった企業側のKPIが優先され、顧客が置き去りになる可能性が高まります。もちろん、ビジネスを維持・拡大する上で、企業視点をまったく無視することはできません。しかし、企業視点のみで施策を進めると以下のような問題点が出てきます。
- 商品設計が機能偏重:企業が強調したい機能ばかりを追加し、顧客が実際に使いこなせない
- 価格設定が競合対策や原価重視:顧客が受け取る価値よりも、企業の利益率や業界の相場に偏重
- 広告・宣伝が自社PR一辺倒:顧客にとってのメリットや解決策より、自社のブランドイメージを押し付けるような内容になりがち
一方で「顧客視点」を取り入れることで、「顧客が望む価値」を満たす商品・サービスを作り、「顧客が興味を持つコミュニケーション」を実現できる可能性が高まります。その結果、顧客満足度が向上し、リピート購入やポジティブな口コミなど、長期的な顧客ロイヤルティを得やすくなるのです。
2. 顧客視点が重要視される背景
2-1. 市場の成熟化と差別化の難しさ
多くの市場が成熟化し、製品やサービスの差別化が難しくなっている現代では、競合他社と同質化しやすい問題が生じています。消費者にとっては価格や基本機能の違いだけではどこを選べばいいか分からず、企業としては値下げ競争や広告費増大によって利益を圧迫してしまうリスクが高まります。
その打開策として注目されているのが「顧客体験(CX)」の重視です。顧客視点を徹底して商品開発やサービス提供を行うことで、顧客体験全体で差別化を図る企業が増えています。例えば、単に商品が良いだけでなく、購入時のサポートやアフターフォローまで含めた体験を最適化することで、競合との差を明確にしようというわけです(参考:HubSpot公式ブログ)。
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2-2. インターネットとSNSの普及
インターネットやSNSの普及により、消費者同士が情報を共有しやすくなりました。気に入った商品やサービスは積極的にSNS上で拡散される一方、不満がある場合も瞬時に広まります。そのため、企業は「顧客満足を高める施策」と「不満をいち早く解消する仕組み」を整える必要があります。
このような環境下では、顧客視点を取り入れ、製品やサービスの利用プロセスで生じる潜在的なストレスを早期に発見し、改善していく姿勢が不可欠です。顧客目線に立った細かい配慮こそが、SNSや口コミサイトでの好評を生む原動力となっています(参考:Salesforce公式ブログ)。
2-3. データ活用の高度化
デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中で、顧客データの収集・分析が容易になりました。顧客の行動履歴や購買履歴、アクセスデバイス、SNS上での声など、あらゆる情報がリアルタイムで取得できます。これらのデータを活用し、顧客の行動やニーズを深く理解することで、より的確な提案やサービス提供が可能になります。
しかし、データだけを見ていると時に分析や数値目標が先行し、実際の顧客の想いが置き去りになることも。重要なのは、データを「顧客の声を理解するための材料」として捉え、その先にある顧客の感情や状況を想像しながら施策に繋げることです。データと顧客視点の両輪を回すことで、より精度の高い顧客体験を設計できるでしょう。
3. 顧客視点を取り入れるメリット
3-1. 顧客満足度・ロイヤルティの向上
顧客視点を徹底的に取り入れたビジネスは、顧客が求める価値を正確に提供できるため、顧客満足度が上がりやすくなります。満足度が高い顧客は、
- リピート購入や継続利用を行う
- 周囲に口コミ・紹介をしてくれる
- 価格よりも体験価値を重視し、高付加価値商品を購入する
といったロイヤルティの高い行動を取りやすくなります。結果として、企業の売上やブランドイメージ向上に繋がるのです。
3-2. 新規顧客獲得コストの削減
顧客視点を採用し、顧客満足度が高まれば、自然とポジティブな口コミが生まれます。SNSや口コミサイトで良い評判が広まると、広告費をそれほどかけなくても新規顧客を獲得できる可能性が高まります。既存顧客からの紹介は信頼度が高いため、広告宣伝だけに頼るよりもコストパフォーマンスが優れているのです。
3-3. 従業員のモチベーション向上
顧客視点を組織全体で共有し、顧客満足を最優先に取り組む姿勢を明確にすると、従業員のやりがいにも繋がります。自らが担当したプロジェクトや開発した製品が顧客に喜ばれている様子をダイレクトに感じられるため、仕事の成果を実感しやすいというメリットがあります。また、顧客志向を持つ組織文化が浸透すると、部署間の連携やチームワークも向上し、最終的にサービス品質全体が高まる効果が期待されます。
4. 顧客視点を取り入れる際のステップ
顧客視点をビジネスに実装するには、漫然と「お客様第一」と唱えるだけでは不十分です。具体的なステップを踏むことで、組織全体で顧客視点を共有・実践しやすくなります。ここでは代表的なステップを4段階にまとめました。
4-1. 顧客ペルソナの明確化
まずは「顧客ペルソナ」を設定し、どのような背景やニーズを持った人々が自社のターゲットなのかを明確にします。ペルソナとは、ターゲット顧客を象徴する仮想の人物像で、
- 年齢、性別、職業、家族構成
- ライフスタイルや価値観
- 抱えている課題や悩み
- 購入動機やブランドへの期待
などを具体的に設定します。ペルソナを設定することで、施策やコンテンツづくりの際に「その人にとっての価値」を意識しやすくなり、企業視点ではなく顧客視点をブレずに維持できるようになるのです。
4-2. カスタマージャーニーの可視化
次に、顧客が自社の商品やサービスを知り、購入(利用)し、アフターサポートに至るまでの一連の流れを「カスタマージャーニー」として可視化します。具体的には、
- どのようなきっかけ(広告、口コミ、検索エンジンなど)で知るのか
- 購入に至るまでどのような情報を必要とするのか
- 購入後のフォローやサポートはどのように行われるか
- リピート購入や解約をする理由は何か
といったプロセスごとに顧客が抱える課題や感情を洗い出すことで、接点(タッチポイント)ごとの課題や改善点を把握することができます。カスタマージャーニーを描くことで、顧客視点での体験全体を俯瞰的に捉えやすくなります(参考:Forbes JAPANなどでの企業事例紹介)。
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4-3. 顧客の声(VOC)の収集
顧客視点を確立するには、実際の顧客の声(Voice of Customer)を継続的に収集・分析する仕組みが欠かせません。主な方法としては、
- アンケート調査:満足度や改善点を定期的にヒアリング
- インタビュー/ユーザーテスト:より深いインサイトを得るための定性調査
- SNSモニタリング:TwitterやInstagram、Facebookなどでの顧客の反応や声をチェック
- レビューサイトの分析:Amazonや価格.com、口コミサイトなどでの評価を確認
集めたデータをもとに、顧客がどのポイントで満足し、どのポイントに不満を持っているのかを把握し、それを製品・サービスの改善に反映させていきます。
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4-4. 組織全体への浸透とPDCAサイクル
顧客視点を取り入れるのは、マーケティング部門や商品企画部門だけの仕事ではありません。営業、カスタマーサポート、経営企画、開発など、すべての部門が顧客視点を持つことが理想です。そのためには、
- 経営トップが顧客重視の姿勢を明確に打ち出す
- 各部門のKPIに顧客満足度やNPSなどを取り入れる
- 顧客から得たフィードバックを組織全体で共有する
といった取り組みが必要です。さらに、顧客の声→施策立案→実行→効果検証→次の施策というPDCAサイクルを回し続けることで、顧客視点が企業文化として根づき、継続的な改善が進みます。

5. 顧客視点を阻む要因と対策
5-1. 部門ごとの縦割り構造
企業の多くは、部署ごとの役割分担が明確になっていますが、その一方で組織が縦割りになりやすいという課題があります。顧客視点で見ると、営業部門とマーケティング部門、サポート部門などが連携を取れていないと、
- 重複した顧客へのアプローチ
- 顧客対応方針の不一致
- 顧客データの分断
などが起こり、顧客体験が損なわれる恐れがあります。対策としては、CRMシステムなどを導入して顧客情報を一元管理し、部門間で共有・連携できるようにすることが有効です。さらに、クロスファンクショナルチームを編成して顧客対応の課題を横断的に解決する取り組みも効果が期待できます。
5-2. 企業文化やトップの方針不足
顧客視点を取り入れようとする現場の努力があっても、経営陣やトップのコミットメントが弱いと、組織全体に浸透しにくい傾向があります。例えば、短期的な売上目標にこだわりすぎて、顧客の長期的な満足度やロイヤルティ向上策が後回しになるケースです。
これを防ぐには、経営トップが顧客志向の重要性を全社に明言し、リソースや予算を積極的に投下する必要があります。また、顧客視点に基づく施策で得られた成果(顧客満足度の改善や売上向上など)を社内で積極的に共有し、成功事例を増やしていくことが文化醸成への近道です。
5-3. 過度な数値至上主義
データドリブンな組織運営が注目されていますが、数値のみを追いかける「数値至上主義」に陥ると、顧客視点が置き去りになる可能性があります。例えば、クリック率やコンバージョン率など、目に見える指標ばかりを最適化していると、実際の顧客満足や体験価値が犠牲になる恐れがあるのです。
数値による定量評価は必要ですが、それだけでは把握できない顧客の感情や潜在ニーズを定性調査やインタビューなどで補完することが重要です。数字と顧客の声を両輪で捉えることで、より実際的な顧客視点が得られます。
6. 顧客視点を活かした成功事例
顧客視点を取り入れて成功を収めた企業は数多く存在します。ここでは、その中でも特に顕著な成果を上げた事例をいくつか紹介します。
6-1. スターバックス:体験価値の最適化
スターバックスは単なるコーヒー販売店ではなく、「特別な体験を提供する場」として顧客視点を徹底しています。店内の雰囲気づくりから接客態度、商品説明やカスタマイズオーダーへの対応まで、顧客が心地よく過ごせる体験を追求しています。さらに、顧客データを活用したパーソナライズドな販促や、モバイルアプリの利便性向上など、顧客目線で細かな改善を継続的に行うことで、高い顧客ロイヤルティを獲得しています。
6-2. Amazon:顧客第一主義の徹底
Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏は、常に「顧客中心主義」を掲げ、徹底的な顧客視点のビジネスモデルを構築してきました。例えば、
- 「すべては顧客のために」という理念を社内で徹底
- カスタマーレビューやレコメンド機能で顧客に最適な選択肢を提供
- プライム会員特典などで顧客体験を向上させ、リピート利用を促進
これらが功を奏し、Amazonは世界有数の企業へと成長しました。顧客視点を貫くことで、他社と一線を画す顧客満足度とロイヤルティを築き上げています。
6-3. P&G:生活者のインサイト発掘
日用品や食品を扱うP&Gは、「世界中の消費者の生活を向上させる」というミッションを掲げ、消費者の暮らしを徹底的に研究しています。同社は「消費者のインサイト」を探り出すために、家庭での使用状況を観察したり、消費者インタビューを行ったりと、定性的な調査を重視。その結果、
- 使いやすいパッケージデザイン
- 家事の負担を軽減する機能
- 安全性とコストパフォーマンスのバランス
など、顧客視点ならではの製品開発を継続し、グローバル市場で強いブランド力を保ち続けています。
7. 顧客視点を活かすための具体的な施策
実際の現場で顧客視点を活かすには、いくつかの具体的な施策を組み合わせることが効果的です。ここでは、すぐに取り組みやすいものを中心に紹介します。
7-1. カスタマーサポートの強化
顧客との接点として、カスタマーサポートは非常に重要な役割を担います。顧客が問い合わせを行う背景には、商品の不具合や使い方の疑問など、ネガティブな状況が多いものです。そこできちんと対応すれば、逆に「この企業は信頼できる」とポジティブな印象を与えるチャンスにもなります。
具体的には、
- 問い合わせチャネル(電話・メール・チャットなど)の拡充
- FAQやマニュアルの充実
- 応対品質をモニタリング・フィードバックする仕組みの整備
などが考えられます。迅速かつ顧客目線のサポート対応を行うことで、顧客体験が大きく向上します。
7-2. 定期的な満足度調査とフィードバックループ
顧客満足度を測定するアンケート調査やNPS(ネットプロモータースコア)調査を定期的に行い、集まった意見を社内で共有・改善する「フィードバックループ」を構築します。とくに、
- 顧客がどこに満足・不満を感じているか
- なぜ他社ではなく自社を選んでいるのか
- どんな期待がまだ満たされていないのか
といった点を掘り下げることで、新商品の開発アイデアや既存サービスの改善点を抽出しやすくなります。また、顧客が寄せた意見に対しては「変化があった際に報告する」「個別フォローを行う」など、企業からのアクションがあると、顧客視点の姿勢をより強く感じてもらえます。
7-3. 社内研修やワークショップの実施
顧客視点を組織全体に根づかせるためには、従業員一人ひとりの意識改革が不可欠です。社内研修やワークショップを通じて、以下のような取り組みを行う企業が増えています。
- 顧客体験のロールプレイ:実際に顧客役と対応者役を決め、接客・サポートを模擬体験
- 顧客からの声の共有:クレームや感謝のメッセージを社員全体で共有し、改善策を議論
- デザイン思考の導入:ユーザー視点を重視した発想法を学び、製品・サービス開発に生かす
こうした活動を通じて、「顧客にとって何が価値なのか」を考えるマインドセットが醸成され、社内に顧客志向のカルチャーが芽生えます。
8. まとめ:顧客視点を貫くことが長期的な成功への道
「顧客視点とは?」というテーマについて、その定義から重要性、実践プロセス、成功事例までを包括的に解説してきました。市場環境が激化し、商品やサービスの差別化が難しくなる中で、いかに顧客の目線で価値を提供できるかが企業の生き残りを左右すると言っても過言ではありません。
顧客視点を取り入れるメリットは大きく、顧客満足度の向上やロイヤルティの強化、ポジティブな口コミによる新規顧客獲得など、長期的なビジネスの安定と成長が期待できます。一方で、企業内の縦割り組織やトップマネジメントの意識不足、数値至上主義の弊害など、いくつかの障壁があるのも事実です。しかし、それらを乗り越えて顧客視点を組織的に根付かせた企業は、スターバックスやAmazon、P&Gのように確固たるブランド力と顧客基盤を築いています。
最初は小さな取り組みで構いません。顧客アンケートを活用してみる、カスタマーサポートの対応フローを見直す、チームでペルソナやカスタマージャーニーを作成してみるなど、できるところから顧客視点を取り入れてみましょう。その積み重ねが、企業のサービス品質を大きく変え、やがて顧客からの高い評価と信頼につながるはずです。
ぜひ本記事を参考に、顧客視点をビジネスに活かすための第一歩を踏み出してみてください。顧客の目線を理解し、それに真摯に応え続ける企業こそが、これからの時代をリードしていくことでしょう。
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