QSCの徹底理解と効果的な活用方法|飲食店の顧客体験を向上させる戦略
更新日:2025.03.25


梅川 啓
株式会社エモーションテック Marketing Manager
複数企業の事業責任者を歴任したのち、2020年よりエモーションテックにCXコンサルタントとして参画。製薬会社や金融機関、化粧品メーカーのNPSプロジェクトやCXマネジメントの支援に携わる。2022年よりマーケティングに従事し、各種セミナーやイベントに登壇。
はじめに:QSCとは何か
QSCは、Quality(品質)・Service(サービス)・Cleanliness(清潔さ)の頭文字を取った言葉です。この概念を世に広めたのが、マクドナルドのビジネス拡大に尽力したレイ・クロック(Ray Kroc)であるとされています。もともとはマクドナルドの店舗オペレーションを成功させるために考案された方程式ですが、現在では多くの飲食店やサービス業において重要な指標として活用されています。
実際、QSCを単なる店舗オペレーションの指標として捉えるだけでなく、「顧客体験(CX)」を包括的に向上させる考え方として活用することで、業績アップやリピーター増加につなげている企業も少なくありません。
本記事では、飲食店を複数店舗運営する企業の営業担当者、とりわけエリアマネージャーを統括する方々を主なターゲットと想定し、QSCを軸にしながらどのように顧客体験を向上させるかについて、さまざまな視点から詳しく解説していきます。
目次
QSCの歴史的背景と重要性
QSCというフレームワークの起源は、1950年代にマクドナルドをフランチャイズ展開によって大きく成長させたレイ・クロックまで遡ります。マクドナルドは「同じ品質・同じサービス・同じ清潔さ」を世界中どの店舗でも維持することで、顧客に安定した飲食体験を提供することに成功しました。
この「品質・サービス・清潔さ」は、ファストフード業界にとどまらず、レストランやカフェなどの飲食店全般、さらに美容院やホテルなどサービス全般にも通じる重要な要素です。
特にファミリーレストランやチェーン展開するカフェなどでは、「どの店舗に行っても同じレベルのサービスを受けられる」という安心感が顧客ロイヤルティにつながります。これを組織的に実践するための基礎となるのがQSCです。
また、近年はインターネットやSNSの普及によって、顧客が店舗体験をオンライン上で共有しやすくなりました。良い口コミは多くの新規客を呼び込みますが、悪い口コミは一瞬で広がり、店舗イメージやブランド価値を損なうリスクがあります。そのため、QSCのように「顧客目線での店舗品質を総合的に管理する取り組み」の重要性はますます高まっているのです。
QSCと顧客体験(CX)の関係
近年、さまざまな業種で「CX(顧客体験)」が重要視されています。CXは、顧客が企業やブランドと関わる一連の体験すべてを指します。
飲食店におけるCXは、「来店前の情報収集」、「店舗に入る時の第一印象」、「注文時の接客や料理の品質」、「トイレや店内の清潔感」、「会計時や退店後のアフターフォロー」など、すべてが含まれます。
実際に顧客が「また来たい」「他の人に薦めたい」と思うかどうかは、これらの要素が総合的に満たされているかによって決まります。
このとき、QSCの3つの要素はCXの核となる部分をしっかりとカバーしています。
Quality(品質)と顧客体験
品質とは、商品そのもののクオリティを指しますが、飲食店の場合は「料理の味・盛り付け・提供スピード」などが含まれます。顧客は期待した味や温度、ボリュームを得られないと不満を感じやすく、満足度が下がります。品質管理を徹底することで、「何度来店しても同じ美味しさ」を提供できるようになり、顧客の信頼度が高まります。
また、原材料の安全性や調理プロセスの衛生管理も含まれるため、品質を軽視するとブランド毀損につながるケースもあります。昨今、食品偽装や異物混入問題がメディアを通じて拡散されやすいため、安全安心の品質を守る仕組みづくりが欠かせません。
Service(サービス)と顧客体験
サービスは、スタッフの接客態度やオペレーションのスムーズさを指します。丁寧で明るい対応はもちろん、顧客が感じるストレスを最小限にする工夫(待ち時間の管理、正確なオーダーの提供など)が求められます。
飲食業界では、「ファーストコンタクトの笑顔」が非常に重要とされています。また、注文の取り間違いが少ない、飲み物や料理の提供タイミングが適切、追加オーダーや会計時にも快く対応するといった点が、顧客満足度を左右します。
Cleanliness(清潔さ)と顧客体験
清潔さは、店内の掃除や衛生管理はもちろん、キッチンやトイレ、スタッフの身だしなみなど多岐にわたります。近年は衛生面への意識が特に高まっており、アルコール消毒の設置や定期的なテーブル拭き、空気清浄などが当たり前になりつつあります。
清潔さを保つことは、「料理の品質」や「サービスの良さ」があっても、店内が汚れているというだけで台無しになってしまうほど大切な要素です。店舗への第一印象や安全感にも直結するため、欠かすことのできない要素と言えます。
QSC導入のメリット:飲食店運営の視点から
では、なぜQSCを徹底して管理することが重要なのでしょうか。ここでは、QSCがもたらすメリットをいくつかピックアップして解説します。
1. ブランド価値の向上
QSCを常に高いレベルで維持できる店舗は、「安定した顧客体験を提供できるブランド」としての評価を獲得できます。飲食業界は味や価格競争が激しい一方で、顧客が最終的に選ぶ理由は単に「安いから」「美味しいから」だけではありません。「店の雰囲気が良くて過ごしやすい」「店員さんの対応が良いから気持ちよく過ごせる」など、QSCの各要素を総合的に評価して再来店を決めるケースも多いのです。
2. リピーターの増加
顧客が一度来店して「満足した」「良い印象を持った」という経験は、再来店の大きな動機になります。QSCの水準を常に保つことで、「いつ来ても同じレベルの良い体験が得られる」という安心感を顧客に与えられます。
一方、一度でも大きな不満を感じさせてしまうと、二度と来店しないどころか、SNSや口コミサイトでネガティブな情報を拡散されるリスクがあります。QSCを一定レベルに保つことは、ネガティブな口コミの発生を未然に防ぐうえでも効果的です。
3. エリアマネージャーによる複数店舗管理が容易に
複数店舗を展開する企業の場合、エリアマネージャーが統括する店舗の水準を均一に保つことが大きな課題になります。QSCは、シンプルでわかりやすい指標であるため、各店舗の達成状況を一元的に評価しやすく、問題発生時には「品質」「サービス」「清潔さ」いずれの項目が原因かを特定しやすいのです。
また、評価基準が明確になると、店舗スタッフに対しても「どこを重点的に改善すべきか」が伝わりやすくなり、結果として現場のモチベーション管理や教育にも好影響を与えます。
4. 採用や人材育成への好影響
QSCを徹底している企業や店舗は、「働く側」にとっても秩序や基準が明確であるため、研修や新人教育が行いやすいメリットがあります。
たとえば新人アルバイトが入った際にも、何をどうすれば良いのかが具体的に伝えやすく、かつ既存スタッフとの目線合わせがスムーズになります。「何が正解かわからない」環境よりも、QSCが浸透している店舗のほうが働きやすいと感じてもらいやすいのです。
店舗評価とアンケートの活用:QSCを数値化する方法
QSCを実践・改善するためには、「現状を正しく把握し、適切な改善策を打つ」というプロセスが不可欠です。しかし、品質・サービス・清潔さといった要素は感覚的・主観的に捉えられがちです。そこで活用したいのが「アンケート」を中心とした顧客の声の収集と、店舗評価の仕組みです。
アンケート調査の重要性
飲食店におけるQSCを正しく評価するためには、来店客の率直な感想や満足度を把握する必要があります。
アンケート調査を活用すると、次のようなメリットがあります。
- 定量的データの取得: 顧客満足度を数値化できる。
- 定性的データの取得: 自由記述欄などで具体的な感想や要望がわかる。
- 時系列比較が可能: 定期的にアンケートを実施することで、改善施策の効果を検証できる。
- 改善優先度の把握: 満足度が低い項目を特定し、優先的に改善策を投下できる。
関連記事:
顧客満足度の調査方法とは?アンケートの作成方法や効果的な実施のポイントをご紹介
アンケート設計のポイント
アンケートを実施する際は、目的と対象を明確にしたうえで、質問項目を設計する必要があります。QSCの観点を盛り込みながら、「飲食店における大事な要素」をバランスよくカバーしましょう。
たとえば、以下のような項目を設定すると、顧客が感じた店舗体験を多角的に把握できます。
QSC項目 | アンケート例 | 評価方法 |
---|---|---|
品質(Quality) | 料理の味、温度、盛り付け、量に満足しましたか? | 5段階評価・自由記述 |
サービス(Service) | スタッフの接客態度や対応速度はいかがでしたか? | 5段階評価・自由記述 |
清潔さ(Cleanliness) | 店内やテーブル、トイレなどの清潔感についてどう感じましたか? | 5段階評価・自由記述 |
上記のようにQSCと紐づく項目を盛り込むことで、アンケート結果から各店舗の課題や強みを可視化できます。また、アンケート回答は来店客にとっても手間がかかるため、タブレット端末の導入や、QRコードを利用したWebアンケートなど、回答しやすい環境を整備してあげることが重要です。
顧客満足度調査を自動化・効率化する取り組み
店舗数が増えると、アンケート用紙の配布・回収、データの集計作業などが負担になります。そこで、アンケートのデジタル化やクラウドサービスによる自動集計ツールの導入が有効です。
当社でも、店舗運営企業向けに顧客体験を調査・分析するサービスを提供しています。詳しくは下記のリンクを参照してみてください。
データの集計や可視化を効率化することで、エリアマネージャーや経営陣が多店舗の状況をリアルタイムで把握し、迅速に改善策を講じることが可能になります。
従業員満足度とQSCの関係
QSCを高めるには、従業員一人ひとりが品質・サービス・清潔さの意識を高く持ち続ける必要があります。しかし、従業員のモチベーションが低い店舗では、どうしてもサービス品質にばらつきが生じがちです。
そこで、従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)を把握することも重要です。従業員が働きやすい環境を整備し、QSCの意義を理解してもらうことで、現場レベルでのオペレーションが円滑に回りやすくなります。
エリアマネージャーは各店舗の雰囲気やスタッフの声を定期的にチェックし、問題点があればすぐに対処する体制を築いておくことが求められます。
関連記事:
サービスプロフィットチェーン(SPC)とは?顧客と従業員の満足度が企業収益に繋がる仕組みを解説
QSCを改善・向上させるための具体的ステップ
ここでは、飲食店がQSCを改善・向上させるための具体的なステップを整理します。エリアマネージャーや営業統括部署の方々が、店舗を複数管理する際のフレームワークとしても活用できるはずです。
ステップ1:現状診断
まずは各店舗のQSCを現状把握するところからスタートします。
- 店舗巡回: エリアマネージャーが実際に店舗を訪問し、スタッフのオペレーションや清掃状況をチェック
- 顧客アンケート: 上述の通り、顧客満足度やクレーム内容を定量・定性的に把握
- 従業員アンケート: 現場での課題や不満、改善アイデアなどをヒアリング
ステップ2:課題抽出と目標設定
現状診断のデータをもとに、店舗ごとのQSCの課題を明確にし、優先度をつけて目標を設定します。たとえば、「まずは清潔さを重点的に改善する」といった具合に、短期・中期・長期の目標を立てることが大切です。
このとき、「どの指標がどれくらい上がると成功か」を数値で示すと、店舗スタッフにもモチベーションが伝わりやすくなります。
ステップ3:改善施策の実行
課題と目標が定まったら、具体的な改善施策を実行に移します。たとえば、
- 【品質】調理マニュアルの見直し、食材仕入れルートの再検討
- 【サービス】接客研修の実施、スタッフの配置バランスを適正化
- 【清潔さ】定期的な清掃チェックリストの導入、衛生管理担当者の設置
改善施策をスムーズに回すためには、現場スタッフが理解しやすいマニュアル化や、管理者による定期的なフィードバックが重要です。
ステップ4:評価とフィードバック
施策を実行したあとは、再度アンケートや店舗巡回を実施し、その結果を可視化します。
- 施策前後で顧客満足度に変化はあったか
- 従業員の意識や働きやすさは改善したか
- 売上やリピーター数に影響があったか
これらを総合的に分析したうえで、更なる改善点を抽出し、再びアクションプランを練り直すというサイクルを回すことで、QSC水準は着実に向上します。
店舗評価指標の多角化:SNSや口コミサイトへの対策
従来、店舗評価は内部指標や顧客アンケートがメインでしたが、SNSや口コミサイトの普及により、「オンライン上での評価」も重要性を増しています。
たとえば、Googleマップのクチコミや、食べログ、ホットペッパーグルメなどのユーザーレビューは、新規顧客の来店を左右する大きな要素になっています。
QSCを高める施策は、こうしたオンライン評価にも直結します。特に清潔さやスタッフの態度については、口コミで否定的なコメントがつくと修復に時間がかかるため、早め早めの改善が求められます。
オンライン評価をモニタリングする仕組みづくり
エリアマネージャーや本部の担当者が、定期的に各店舗のオンライン評価をチェックし、気になるクチコミがあれば店舗と連携して対応策を打つことが重要です。
クレームの原因が把握できれば、改善施策を迅速に立てられますし、ポジティブな口コミはスタッフのモチベーション向上に活用できます。
QSC向上事例:成功と失敗から学ぶポイント
QSCを高めるには長期的な取り組みが必要ですが、その道のりで成功事例と失敗事例の両方が多くあります。ここでは、一般的によく挙げられるポイントをまとめます。
成功事例
- マニュアルの定期更新
大手チェーンでは、QSCの維持に欠かせない調理・接客マニュアルを定期的に改訂し、現場からのフィードバックを積極的に反映している。これにより、現場と本部のコミュニケーションが円滑になり、改善施策のスピードが上がっている。 - 従業員エンゲージメントの向上
スタッフの接客態度はサービスの根幹となるため、従業員満足度向上のための制度を充実させる企業が多い。具体的にはインセンティブや表彰制度を導入し、QSC指標を高める行動をしたスタッフを称える仕組みを作ることで、店舗全体のモチベーションを高めている。
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従業員満足度(ES)向上国内事例をご紹介!有名チェーン店は離職を防ぐために何をしているのか?
失敗事例
- 評価基準の複雑化
QSC以外にもさまざまな指標を追加しすぎて、スタッフが「どこに重点を置けばいいのか」わからなくなるケースがある。結果としてどの指標も中途半端にしか達成できず、業務が混乱する。 - 現場主導の改善が遅れる
本部主導で一方的に施策を押し付けてしまい、店舗スタッフからの抵抗感が増してしまうケース。現場の実情に合わない施策は長続きせず、定着せずに終わってしまう。
まとめ:QSCと顧客体験を統合的にマネジメントする時代へ
QSC(Quality・Service・Cleanliness)は、飲食店やサービス業において古くから重視されている概念ですが、顧客体験(CX)がビジネス成長のカギを握る現在、改めてその重要性が見直されています。
特に、複数店舗を運営する企業の営業担当者やエリアマネージャーは、QSCというシンプルな指標を軸に、店舗評価やアンケートを活用しながら、改善施策を実行する必要があります。オンライン口コミへの対応や従業員満足度の向上なども含め、多面的にQSCをマネジメントする時代となっています。
今後、顧客が求める基準はますます高まり、競合他社とのサービス品質競争も激化していくでしょう。だからこそ、「顧客が本当に望んでいる価値」を見極め、QSCを常に高いレベルで保つことが重要です。継続的な調査とフィードバック、改善を繰り返すことで、店舗評価は自然と高まり、売上や顧客ロイヤルティの向上につながります。
最後に、QSCの観点から店舗のCXを向上させたいと考えている方は、ぜひ以下のようなステップを実行してみてください。
- 顧客アンケートや従業員アンケートによる現状把握
- エリアマネージャーの巡回・観察による定性情報の取得
- 課題抽出と目標設定を行い、数値目標を明確化
- 具体的な改善施策とマニュアル策定
- 施策後の再評価とフィードバックループの構築
このサイクルを回し続ければ、QSCは常にブラッシュアップされ、顧客体験の質は自然と向上していきます。顧客に選ばれるブランドとして成長するためにも、今日からぜひQSCに取り組んでみてはいかがでしょうか。
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