テキストマイニングを活用したフリーコメント分析の方法
更新日:2025.03.25


池亀和樹
株式会社エモーションテック シニアCXデータアナリスト
上智大学大学院卒、心理学修士。
大手信用調査会社を経て、2016年エモーションテック入社。2018年より統計解析部門責任者。心理統計・データ解析・ES/CS調査設計を専門とし、ロイヤルティ分析特許を複数取得(特許第6176813号、特許第6588176号)。
最近では生成AIを用いてコメントデータから感情解析する技術を開発。
顧客満足度の向上や品質保証に携わる担当者にとって、顧客から寄せられる自由回答(フリーコメント)をいかに活用するかは重要な課題です。アンケートやレビューに記載された生の「顧客の声 (VoC: Voice of Customer)」には、数値評価だけでは見えてこない改善のヒントが多く含まれています。
こうしたフリーコメントを効率的に分析するためにテキストマイニングが有効です。本記事では、フリーコメント分析の重要性から、テキストマイニングによる具体的な分析手法、活用事例、そして直面しがちな課題とその解決策までを、専門知識がない方でも理解できるように詳しく解説します。
目次
フリーコメント分析の重要性
VoC(顧客の声)の活用と顧客満足度向上への影響
「顧客の声」を継続的に収集し分析することは、企業が顧客志向の改善を進める上で不可欠です。VoC(Voice of Customer)とは直訳すると「顧客の声」であり、アンケート調査の自由回答やお問い合わせ窓口に寄せられる意見・クレームなど、顧客からのあらゆるフィードバックを指します。
十分な量のVoCデータを分析して傾向を把握すれば、製品やサービスの改善、マーケティング戦略の見直しなどに活かすことができます。実際、顧客満足度調査やNPS調査、またクレーム対応において、テキスト形式のフィードバックを分析するこ
とで、数値結果だけでは分からない顧客の真のニーズや不満点を発見でき、CX(顧客体験)の向上につながります。
また、自由記述のコメントを分析することで、顧客が自社に期待することや評価している点を把握できます。ポジティブな声からは自社の強みを再確認でき、ネガティブな声からは具体的な改善点が得られます。例えば「対応が丁寧」という声が多ければそれを強みに磨き上げ、「待ち時間が長い」という声があればプロセス改善を検討するといった具合に、VoC分析は顧客満足度向上の指針となります。
参考記事:
VoCとは?顧客の声をビジネスに活かす全体像と実践手法の詳細解説
NPS向上におけるフリーコメントの役割
近年、多くの企業が顧客ロイヤリティ指標としてNPS(ネット・プロモーター・スコア)を導入しています。NPS調査では「この商品/サービスを知人にすすめる可能性はどのくらいありますか」という定量質問(0〜10の数値評価)と共に、「そのスコアをつけた理由を教えてください」という自由コメント欄が設けられるのが一般的です。このフリーコメント部分こそが、スコアの裏付けとなる顧客の生の声です。
NPSのスコア自体は顧客の推奨度合いを一値で表すものですが、スコアを上げるための具体策を知るには自由コメントの分析が不可欠です。例えば、低評価(0〜6をつけた批判者)の顧客が「価格が高い」「サポート対応が遅い」とコメントしているケースが多いと分かれば、その改善がNPS向上の鍵となります。同様に、高評価(9〜10の推奨者)の顧客から「使い勝手が良い」「機能が充実している」といった声が多ければ、それらが自社の強みであり今後も伸ばすべきポイントだと判断できます。自由コメント分析によって、定量スコアの裏にある成功要因や課題を抽出し、NPS向上につなげることができるのです。
テキストマイニングとは
フリーコメントを分析するには、文章データを体系的に処理するテキストマイニングの技術が欠かせません。テキストマイニングとは、文章などの非構造データから有益な情報を引き出すために、コンピュータを使ってテキストを自動解析する手法です。具体的には、テキストを単語やフレーズに分割し、それらの出現頻度や単語同士の関連性(共起関係)などを統計的に分析します。その結果、テキスト全体の傾向や特徴を把握し、新たな知見や洞察を得ることができます。
例えば、顧客コメントをテキストマイニングで解析すれば、どの製品特性に関する単語が頻出しているか、あるいは特定のキーワード同士がよく一緒に言及されているか(共起しているか)を明らかにできます。これにより「顧客が何に言及しているか」「どのような感情を抱いているか」を効率良く把握できるのです。大量のコメントを一件ずつ人手で読むのは困難ですが、テキストマイニングを活用すれば、コンピュータが迅速にパターンを検出し、重要なトピックや兆候を浮かび上がらせてくれます。
テキストマイニングの実施には専用のツールやソフトウェア、またはプログラミング用のライブラリを用いるのが一般的です。近年はGUI操作で使える使いやすいツールから、高度な解析が可能なプログラムライブラリまで、多くの選択肢があります。後述する具体的手法の項でツール例も紹介しますが、専門知識がなくても扱えるKH Coderのようなソフトから、Python言語の自然言語処理ライブラリを駆使したカスタム分析まで、目的とスキルに応じて様々なアプローチが可能です。
参考記事:
テキストマイニングとは?生成AIによる進化についても解説
分析の手順
それでは、実際にフリーコメントをテキストマイニングで分析する際の基本的な手順を見ていきましょう。大きく「データの収集」「データの前処理」「分析」「活用」のステップに分けられます。
データの収集
まずは分析対象となるフリーコメントデータを収集します。顧客からの自由回答は様々な経路で得ることができます。典型的な例として、アンケート調査(顧客満足度調査やNPS調査など)の自由記述欄、SNS上の投稿(Twitter上の製品に関するつぶやき等)、商品レビューサイトの口コミ、お問い合わせメールやコールセンターの通話記録(要約テキスト)などが挙げられます。自社製品やサービスに関する顧客の声が含まれているデータであれば、社内外を問わず幅広く収集対象となります。
データ収集の際には、分析の目的に即したコメントを集めることが重要です。例えば、自社サービス全般の評価を知りたいならサービス利用後のアンケートコメントを、特定商品の改良点を探りたいならその商品のレビューを中心に集めるといったように、目的に合致したデータソースに注力します。また、十分なコメント数を確保することも大切です。件数が少なすぎると分析結果に偏りが生じる可能性があるため、可能であれば数十〜数百以上のコメントを集めると良いでしょう。
参考記事:
VoC収集の方法を徹底解説!顧客の声を正確に捉え、戦略的改善に結び付ける
データの前処理
収集した生のテキストデータは、そのままでは分析に適さない場合があります。誤字脱字や表記ゆれ、不要な記号類などの「ノイズ」を含んでいることが多いため、分析前にデータの前処理(クレンジング)を行います。まず、HTMLタグや特殊記号、絵文字など分析に不要な文字を除去・統一します。
次に、日本語のテキストの場合は形態素解析という処理を施し、文章を単語単位に分割します。形態素解析とは、文章を言語学的な最小単位(形態素)に切り分けて、それぞれの単語の品詞を判別する処理です。例えば「この製品は使いやすいです」という文を形態素解析すると「この/製品/は/使いやすい/です」のように単語に分解できます。
形態素解析にはオープンソースのMeCabなどのエンジンや、PythonのJanomeライブラリなどがよく利用されます。こうしたツールを用いて単語に区切った後、分析の目的に応じて不要な単語を除去します。たとえば「あの」「そして」などの意味を持たないストップワードや、今回の分析テーマに直接関係しない単語があれば除去や正規化を行います。場合によっては、専門用語や製品名の揺れ(例:「製品A」「Product A」)を統一したり、類義語を置き換えたりすることも有効です。前処理を丁寧に行うことで、この後の分析結果の信頼性が高まります。
分析
データのクレンジングと単語への分割が完了したら、いよいよテキストデータの解析を行います。分析手法には後述するように様々な種類がありますが、まず取り組みやすいのは頻出語の集計です。全コメントでどの単語が何回出現したかを数え上げることで、顧客が頻繁に言及するトピック(関心事や不満点)が明らかになります。
同時に、コメント一つひとつの内容を機械学習で分析し、感情分析(センチメント分析)によってポジティブ/ネガティブの傾向を判定することも可能です。また、単語同士の組み合わせに注目した共起分析では、「品質」と「価格」など特定の単語ペアが同じコメント内でどの程度一緒に出現するかを調べ、語と語の関連性を分析します。さらに、高度な方法として、コメントを内容の類似性に基づき自動でグループ化するクラスタリングや、隠れたトピックを確率的に推定するトピックモデリングも有効です。
これらの分析は、専用ツールを使えばクリック操作で実行できますし、プログラミングを用いる場合でもPythonのデータ分析ライブラリ(Pandasやscikit-learnなど)を組み合わせて処理できます。例えば、KH Coderのようなソフトでは頻出語や共起ネットワークの可視化が簡単に行えます。一方、Pythonを用いれば、自社のニーズに合わせて細かな分析カスタマイズが可能です。いずれの方法でも、分析結果から見えてきた傾向に注目し、顧客の声が示す示唆を読み取ることが大切です。

活用方法
分析から得られた知見は、実際の顧客満足度向上や品質改善の施策に結びつけてこそ価値があります。頻出するキーワードやネガティブな感情が検出されたポイントについては、関連部署と共有し具体的な改善策の検討に入ります。例えば「○○の操作がわかりにくい」という声が多く分析で浮かび上がったなら、UXデザインの見直しやマニュアル整備を行う、といった対応策が考えられます。また「対応が丁寧で安心できた」といった好意的なコメントが多数ある場合は、その接客手法を他部署にも展開するなど、強みの水平展開につなげます。
重要なのは、テキスト分析の結果を関係者が理解しやすい形で共有することです。グラフやワードクラウド、共起ネットワーク図などで視覚化すれば、非技術者でも直感的に結果を捉えられます。例えば、頻出単語のランキングを棒グラフ化したり、ワードクラウドで顧客の関心キーワードを一目で示すことができます。これにより、経営層や現場スタッフにも顧客の声の傾向が伝わりやすくなります。
分析結果を報告書や社内プレゼンテーションにまとめ、改善アクションの優先順位づけやKPI設定に役立てましょう。最終的には、実施した施策によって顧客満足度指標やNPSがどう変化したかを追跡し、フィードバック分析→改善→再度分析というサイクルを回すことが理想です。
具体的な分析手法
ここでは、フリーコメント分析で用いられる代表的なテキストマイニング手法について、それぞれの概要とポイントを紹介します。
頻出単語の抽出
頻出単語の抽出は、集めたコメント群の中で特によく出現する単語を洗い出す基本的な手法です。テキストを単語に分割し、出現回数をカウントして上位の単語を抽出します。これにより、顧客が何について頻繁に言及しているか主要なトピックを把握できます。例えば、ある製品のレビューコメントで「価格」「デザイン」「バッテリー」という単語が上位に来た場合、その製品に関する議論は主に価格やデザイン、バッテリー性能に集中していることが分かります。
頻出単語の結果は、テキストデータ全体の特徴をつかむ手がかりとなります。結果を一覧表やグラフで示すほか、ワードクラウドで可視化する方法もよく使われます。ワードクラウドとは、テキスト内で頻出する単語を大きく表示し、出現頻度の高低を視覚的に表現する手法です。頻度の高い単語ほどフォントサイズを大きく表示するため、一目で重要なキーワードが分かります。ただし、頻出単語を見る際には、「良い」「悪い」など単体では意味が判定しにくい形容詞や、文脈次第で解釈が変わる言葉については注意が必要です。生のコメント文も併せて確認しながら、何を示す単語なのか解釈するようにしましょう。
感情分析(センチメント分析)
感情分析は、コメント一つひとつの文章から書き手の感情を判定する手法です。ポジティブ・ネガティブ分析とも呼ばれ、テキスト中に表れる言葉遣いや表現から、そのコメントが肯定的なのか否定的なのか、あるいは中立的かを分類します。例えば「とても満足しています!」「迅速なサポートに感謝します」のようなコメントはポジティブ、「期待外れだった」「対応が遅く不満に思う」はネガティブと判定されます。
感情分析を行うことで、全体として顧客の満足度が高いのか低いのかを定性的に把握できます。コメント全体に占めるポジティブ意見とネガティブ意見の比率を算出したり、時系列で感情傾向の推移を追跡したりも可能です。また、特定のトピックに関するコメントだけ抽出して感情分析をすれば、そのトピック(例えば「価格」や「サポート」)に対する評価が肯定的か否定的かを測ることもできます。
分析手法としては、あらかじめポジティブ・ネガティブワードの辞書を用意してヒット数を数えるルールベースの方法や、機械学習・ディープラーニングを使ってテキストを自動分類する方法があります。専門知識がない場合でも、近年はAIを活用したサービスやオープンソースのモデルが公開されているため、それらを利用することで比較的容易に感情分析を導入できます。
共起ネットワーク分析
共起ネットワーク分析は、テキスト内の単語同士の関係性に着目する手法です。ある単語Aと単語Bが同じコメント内で一緒に登場する頻度(共起頻度)を計算し、単語をノード、単語間の共起をエッジ(線)で結んだネットワーク図として可視化します。共起ネットワークでは頻出する単語ほどノード(点)を大きく描き、共起頻度の高い組み合わせほどノード間の線を太く描画するのが一般的です。例えば、顧客コメント群で「品質」と「価格」という単語の共起関係が強く太線で結ばれていれば、「価格」に言及するコメントでは「品質」にも触れているケースが多いことを意味します。
参考記事:
共起ネットワーク分析とは?マーケティングや顧客分析での活用について解説
共起ネットワーク分析によって、個々の単語がどんな文脈で使われているか、大まかな関連グループを発見できます。ネットワーク図上で単語がクラスター(かたまり)を形成していれば、それぞれ異なる話題のグループと捉えることができます。例えば「デザイン」「見た目」「色」といった単語が互いに繋がって一団を成していれば、それらは製品の外観に関する話題群と推測できますし、「電池」「充電」「持ち時間」というグループがあればバッテリー性能に関する話題群と読み取れます。このように、共起ネットワークは文章を読まずとも関連するキーワードのまとまりを視覚的に教えてくれるため、顧客の関心テーマを把握するのに役立ちます。
クラスタリング分析
クラスタリング分析は、教師データ(正解ラベル)のないデータを似ているもの同士でグルーピングする手法です。フリーコメント分析においては、個々のコメント文を特徴ベクトルに変換し、内容の類似度に基づいて自動的にクラスター(グループ)に分類します。これにより、人手では数百件を超えると難しいコメントの分類を、客観的な基準で一括して行うことができます。
例えば、ある通販サイトの商品レビュー1000件にクラスタリングを適用したところ、レビューがいくつかのグループに分かれ、それぞれの代表的なキーワードとして「配送」「梱包」「カスタマーサービス」などが抽出されたとします。この場合、配送や梱包、サポート対応といったテーマごとに顧客の声がまとまったと言えます。
クラスターごとのコメント傾向を詳しく読むことで、テーマ別に顧客が何を感じているかを深掘りできます。クラスタリングにはk-means法や階層的クラスタリングなどのアルゴリズムがありますが、テキストマイニングツール(例えばKH Coder)で提供されている機能を使えばアルゴリズムの知識がなくても実行可能です。クラスタリング結果は、セグメント別の傾向分析や潜在的な話題の発見に有用です。
トピックモデリング
トピックモデリングは、統計的手法によって文書集合に潜むトピック(話題の種別)を自動的に抽出する分析です。代表的な手法であるLDA(Latent Dirichlet Allocation)では、あらかじめトピック数を指定すると、アルゴリズムが単語の出現パターンに基づいてその数だけトピックを推定します。各トピックは、そのトピック内で出現確率の高い単語のリストとして表現されます。
例えば、カスタマーレビューの集合にLDAを適用した結果、トピック1は「価格」「高い」「コスパ」、トピック2は「デザイン」「おしゃれ」「色」、トピック3は「操作性」「使いやすい」「UI」といった具合に単語群が得られたとします。この場合、トピック1は価格に関する話題、トピック2はデザインに関する話題、トピック3は操作性に関する話題と解釈できます。
トピックモデリングの利点は、分析者が事前にカテゴリを定義しなくても、データ側から潜在的なテーマを浮き彫りにできる点です。大量のコメントにどんな話題が潜んでいるのか俯瞰したい場合に有効でしょう。ただし、トピックに付与される単語リストから意味を読み取るのは人間の役割ですので、結果を見て各トピックに適切な名前(例:「価格不満」「デザイン賞賛」など)を付け、社内で共有することが大切です。
分析結果の活用事例
NPS改善やクレーム対応への活用
実際に企業がフリーコメント分析を活用して成果を上げた例として、NPSの改善やクレーム対応力の向上が挙げられます。例えば、ある通信サービス企業では、定期的に実施するNPS調査の自由回答をテキストマイニングで分析しました。頻出単語と感情分析の結果から、多くの批判者が「サポート対応の遅さ」に不満を述べていることが判明しました。
そこで同社はコールセンターの人員増強や問い合わせ対応プロセスの見直しを行ったところ、次回調査時には「対応が早くなった」「サポートに満足」とのコメントが増え、NPSスコアも前回より改善する効果が得られました。
また、別の製造業の事例では、顧客からのクレーム報告書や問い合わせメールの本文をテキスト分析し、品質不具合に関するキーワードを抽出しました。その結果、特定の部品に関する不満(例えば「ネジが緩む」「接続不良」といった表現)が繰り返し登場していることが分かり、該当部品の設計変更と検品体制の強化を実施しました。
これにより、後続の顧客クレーム件数が減少し、顧客からの信頼回復につながったといいます。このように、自由記述のクレーム内容を分析することで、真因の特定や対策の優先度判断が迅速に行えるようになります。
ユーザーの声を製品開発・品質改善に活かす方法
顧客のフリーコメント分析結果は、新製品やサービス改善のヒントの宝庫でもあります。たとえばソフトウェア企業では、ユーザーから寄せられた機能要望や不満のコメントを集計し、頻出する要望を製品ロードマップに反映させています。
「○○機能が欲しい」「操作画面をもっとわかりやすくしてほしい」といった声が多ければ、それらを優先的に開発しアップデートすることで、次のバージョンリリース後の顧客満足度向上につなげています。事実、ユーザーの声を取り入れた機能追加によって「待ち望んでいた機能が追加されて嬉しい」とのポジティブな反響が得られた事例もあります。
参考記事:
VoC(顧客の声)を品質保証に活かす方法
また自動車メーカーでは、販売後の顧客アンケートの自由回答から、内装部品の耐久性に関するネガティブコメントを検出しました。「数ヶ月でパネルに緩みが生じた」といった声が複数あったため、調査のうえ製造工程を改善し、部品サプライヤーとも協力して品質基準を引き上げました。
改善後のモデルでは同様の不満コメントがほとんど見られなくなり、製品品質に対する評価(「内装の作りがしっかりしている」等)が向上しました。このように、テキストマイニングで抽出されたユーザーの生の声は、製品開発や品質保証の現場にフィードバックされることで具体的な改善アクションにつながります。
さらに、マーケティング部門においても、フリーコメント分析は顧客インサイトの発見に活用できます。ある商社ではSNS上の自社製品言及投稿を分析し、ユーザーが製品を使用する意外なユースケースを把握しました。その気づきをもとに新たなターゲット層への訴求施策を打ったところ、売上拡大に寄与したとの報告もあります。
こうした成功事例から、顧客の率直な声を定量・定性双方で分析し、各種改善に役立てることが企業価値向上に有効であることが分かります。
よくある課題と解決策
フリーコメント自体の不足やバイアスの問題
フリーコメント分析を進める上でまず直面するのは、肝心の自由回答データが十分に集まらない、あるいは代表性に欠けるといった課題です。任意回答のアンケートでは、回答者の一部しか自由コメントを書かないことも多く、意見が偏ってしまう可能性があります(例えば不満が強い人だけが長文のコメントを書き、満足している人はあまり書かないなど)。
このようなサンプルバイアスを避けるには、調査設計段階で自由記述欄に回答しやすい工夫をすることが有効です。具体的には、「改善してほしい点を一つ教えてください」のように書きやすい質問を設定したり、自由コメントを記入してくれた回答者に抽選でインセンティブを提供したりする方法があります。また、アンケート以外にもSNSやレビューから自主的な意見を集めることで、偏りを緩和できます。
データ数がどうしても少ない場合は、分析結果の解釈に注意が必要です。頻出単語のランキングに現れた意見が本当に多数派の意見を代表するものなのか、それとも少数ながら声の大きい意見なのかを見極めなくてはなりません。
一つの解決策として、定量的な評価指標(満足度スコアなど)との併用があります。例えば「満足度が低い層のコメントに特有のキーワード」を探すといった分析をすれば、数は少なくとも重要な不満要因を特定できます。逆にコメント件数が十分ある場合でも、全体傾向を見るだけでなく個々の意見にも目を配り、分析から漏れる微細なニーズやアイデアを汲み取る姿勢が求められます。
テキストマイニングツールの導入と運用
次に、テキストマイニングを実践するためのツール選定や運用体制の課題があります。初めてテキスト分析に取り組む場合、「専門の分析ツールを持っていない」「社内にノウハウがない」といったハードルを感じるかもしれません。この解決策としては、まずは使いやすいテキストマイニングツールを導入することが考えられます。
日本語のフリーコメント分析に定評のあるソフトウェアとして先述のKH Coderがあります。KH Coderはプログラミング知識がなくてもマウス操作で頻度分析や共起ネットワーク図の作成、クラスタリングなどが実行でき、多くの研究・企業事例で使われています。
また、マイクロソフトのPower BIやオープンソースのOrangeといったBIツール/データマイニングツールにもテキスト分析機能が備わっています。IT部門やデータサイエンスの担当者がいる場合は、PythonやRによるカスタム分析環境を整備する方法もあります。例えばPythonなら、前処理にMeCab、感情分析に機械学習モデル、トピックモデリングにgensim、可視化にmatplotlibやNetworkXといったライブラリを組み合わせて高度な分析が可能です。
自社のリソースやスキルセットに応じて、ツールの内製と外部サービス利用(例えばテキスト分析のクラウドサービス)のバランスを検討すると良いでしょう。重要なのは、導入したツールを一度使って終わりにせず、継続的に運用してナレッジを蓄積することです。分析頻度が低いとノウハウが定着しないため、定期的なVoC分析をルーチン化し、担当者間で結果や手法を共有する仕組みづくりもポイントとなります。
分析結果の解釈と活用の注意点
最後に、分析から得られた結果の解釈や活用に関する課題です。テキストマイニングの結果は一見客観的な数値や図として表れますが、それをどのように読み取り意思決定につなげるかは人間の役割です。注意したいのは、表面的な結果だけで判断を下さないことです。
例えば頻出単語に「高い」があった場合、それが「評価が高い」というポジティブな文脈なのか「価格が高い」というネガティブな文脈なのかを見極める必要があります。感情分析の自動判定も完全ではなく、皮肉や文脈依存の表現を誤分類することがあります。したがって、重要な示唆を得た際には実際のコメント内容をいくつか読み込み、妥当性を検証する作業が欠かせません。
分析結果の活用段階でも、社内共有や施策立案のプロセスに工夫が要ります。データ分析担当者が発見した知見を関係部署に伝える際、専門用語ばかりでは現場に響きません。前述のように可視化したチャートや具体的な顧客の声の抜粋を示しながら、「顧客は○○に不満を感じています」「△△を高く評価しています」と平易な言葉で伝えるよう心がけましょう。
また、複数の示唆が出てきた場合には、インパクトの大きさや実現可能性を軸に優先度をつけ、段階的に改善活動を進めると効果的です。分析を継続していればこそ、施策の結果が次のフィードバックに表れ、そのデータをまた分析して…というPDCAサイクルを回すことができます。
さらに、プライバシーへの配慮も忘れてはなりません。顧客コメントには個人情報や機密情報が含まれる場合があります。テキストマイニングツールへのデータ投入時には情報漏洩対策を講じ、匿名化や要不要のデータ選別を適切に行いましょう。これらの点に注意しつつ、分析結果を過信せず人間の洞察力と組み合わせて意思決定に活用することで、フリーコメント分析は確かな価値を生み出します。
フリーコメント分析は、顧客が発する生の声を企業活動に反映するための強力な手段です。テキストマイニングを駆使すれば、膨大な声の中から重要なテーマや感情の潮流を掴み取り、データに裏付けられた改善策を打ち出すことができます。専門的な知識がなくても使えるツールやサービスも増えており、顧客満足度向上や品質改善に取り組む担当者はぜひ積極的に活用してみてください。定量データだけでなく自由回答の定性データにも光を当てることで、顧客理解が深まり、結果としてより良い製品・サービス提供や顧客ロイヤリティ向上につながるでしょう。
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