須藤 勇人
2015年よりエモーションテックに参画。マーケティング部門の責任者を経て、2018年からはEX事業領域責任者として、企業のEX(従業員体験)向上支援サービスを開発し、企業の従業員エンゲージメント向上を推進。「実践的カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント」著者。
NPS(Net Promoter Score)は、顧客ロイヤルティを測る指標として顧客へのアンケートや調査で多く用いられ、「あなたは、当社の製品やサービスを親しい友人や家族にどの程度おすすめしたいと思いますか?」といった質問から算出することが可能です。
しかし、NPSを取得したものの、この結果をどのようにCX向上施策へ繋げてよいか分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その後のCX向上に向けたアクションを起こすために重要になるのが、NPS調査で得られた回答データの分析です。
どのように分析するかは、必ずしも同じとは限らず、目的によって異なります。そのため、正しい分析方法を知った上で、目的に沿って分析後のアクションを意識した調査設計を行っておくことが重要になります。
そこで、本稿ではこれらの「NPS調査において効果的な分析方法」を取り上げ、目的に合わせた調査方法や手順について分かりやすくご紹介します。
知りたい内容に合わせて最適な分析方法を選び、CX改善に繋げていきましょう。
目次
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NPS(ネット・プロモーター・スコア)の分析方法とは?
NPS調査の分析方法として、定量分析と定性分析の2種類があります。
定量分析とは、数値データをもとに行う分析方法で、大まかに現状と傾向を把握し、全体像を捉えることができます。
対して、定性分析とは、数値化ができない質的データをもとに行う分析方法のことです。
ユーザーの行動心理や価値観、選んだ理由など、顧客の実際の声を捉えるために欠かせない手法です。
NPS調査におけるよくある目的を例に、これらの分析方法がどのように使われているのか、早速見ていきましょう。
関連記事:
NPS®とは?顧客満足度との違い・質問方法・事例まで詳しく解説!
目的別分析方法
ロイヤルティ状況を把握したい場合
「顧客のロイヤルティ状況を把握する」目的には、6象限分析という手法が使われます。
これは、NPSと収益データを掛け合わせ、ロイヤルティ状況を6つにセグメント分けする定量分析の方法で、以下のような内容を知ることができます。
- 改善のアプローチを行うべきターゲットの特定
- ロイヤルティ別の特徴や人数の違い
課題の優先順位を見つけたい場合
「課題の優先順位を見つけたい」ケースでは、4象限分析やカスタマージャーニーマップ分析などの定量分析が活用されます。
4象限分析は、課題の優先順位を見つけるために活用されています。相関分析を使用しているため、excelでも簡単に分析ができます。
そのほかに、重回帰分析を活用したカスタマージャーニーマップ分析という手法があります。4象限分析よりも難易度が高い手法ですが、NPSに与える影響が大きい顧客体験や要因をより詳細に明らかにし、活用されています。
顧客がなぜその選択肢を選んだか、理由を把握したい場合
顧客が選択肢を選んだ理由を深掘りしたいケースでは、フリーコメント分析を行います。
NPS調査では、「どの程度おすすめしたいですか」という質問の他に、推奨度を選んだ理由についてフリーコメントで回答を得ることが多くあります。
このような、テキストをはじめとした数値ではないデータの分析には、定性分析の手法が使われます。
よく使われるのは「共起ネットワーク」「ポジティブ・ネガティブ分析」「頻出語分析」などの手法です。
フリーコメントの分析は、選択肢式の設問の分析に比べて集計に手間がかかりますが、ユーザーの生の声には、顧客の本音が隠れていることもあります。
これまで、目的に沿った分析方法の選び方の例をご紹介してきました。
次章では、実際にどのように分析が行われるのかについて、定量分析・定性分析の手法について、具体的にご紹介していきます。
定量分析の具体的な手法
6象限分析
6象限分析とは、NPSと収益性を組み合わせ、顧客の特徴を分析する手法です。
具体的には、以下の図のように、縦軸を「顧客の収益性の高さ・低さ」、横軸を「推奨度」でプロットします。
推奨度は、そのスコアの高さによって「推奨者」「中立者」「批判者」に分類します。
顧客収益性が高く、推奨者である「最優良顧客層」を見てみましょう。
ロイヤルティ状況が高く、一定期間における購買金額や回数なども高い層です。
商品やサービスを他者へすすめてくれるため、企業のサポーターとも言える存在です。
一方、顧客収益性が低く、推奨度も低い「非協力者層」は、商品やサービスに対しネガティブな印象をもち、購入金額やリピート意向などが低い層です。
他者へおすすめする可能性が低いばかりか、ネガティブな印象のある口コミを広めることもあり、企業にとってはこの非協力者層が増えることがリスクとなります。
それぞれのセグメントを比較すると、属性や、重要視している体験に違いがあることが分かります。
例えば、顧客収益性が高いのに推奨度が低い「離反候補者層」は、不満を感じながらも利用している顧客です。
アプリの接続速度に不満を感じているが、他に代わりとなるサービスが見つかっていないケースが考えられるでしょう。
代替となるサービスを受けられるアプリが見つかった場合には、すぐに乗り換えてしまう可能性があります。
離反を食い止めるためには、不満要素となっている「アプリの接続速度」に対して、改善のアプローチを行うことが適切だと考えられます。
このように、顧客ロイヤルティの状況を把握することで、それぞれに対して適したアプローチを考える方法が6象限分析です。
4象限(アクションドライバー分析)
4象限分析とは、縦軸と横軸を引いて、4つのセグメントを作る方法で、分散しているデータの傾向を捉えるために活用されています。
4つの象限にそれぞれ意味があるため、次の戦略が明確になりやすいことから、ビジネスではよく使われる手法です。
NPS調査データの分析においても4象限分析は広く活用され、「アクションドライバー分析」とも呼ばれています。
ここでは、NPSの向上に影響を与える要素(ロイヤルティドライバー)を導き出す4象限の分析方法についてご紹介します。
まず、縦軸に「推奨度と各顧客体験に対する評価の相関係数」、横軸を「各顧客体験に対する評価の平均値」をプロットし、散布図を作成します。
次に、作成した散布図のグラフに対し、以下のように縦軸と横軸でラインを引き、4象限のマトリクスを作ります。
どの象限にどの要素が当てはまっているかを見ることで、項目の優先度がわかります。
4象限のそれぞれの特徴は以下のようになります。
- 重点維持項目:推奨度・満足度ともに高く、自社の強みともいえる要素
- 優先改善項目:顧客ロイヤルティと相関が高いのに満足度は低い、優先課題となる要素
- 基本維持項目:推奨度と満足度との相関が低く、CXに対する優先度が低い要素
- 注意観察項目:推奨度と満足度がともに低い、注視すべき要素
優先改善項目に「会計時の対応」があった場合には、優先して改善施策を打つことで、顧客ロイヤルティが高まる可能性があります。
この4象限分析は、相関分析を使用しているため、excelのCORREL関数を活用することで、簡単に分析ができます。
カスタマージャーニーマップ分析
カスタマージャーニーマップ分析では、重回帰分析を活用し、カスタマージャーニーごとにNPSに影響を及ぼす要因となる顧客体験の特定を行います。
推奨度を目的変数、カスタマージャーニーを構成する各要素を説明変数とし、重回帰分析を行います。
以下の図は、架空のECサイトにおけるカスタマージャーニーマップ分析の例です。
オレンジの軸が「現状のロイヤルティスコア」、緑軸が「顧客にとっての重要度(体験の推奨度への影響の大きさ)」を表しています。
この2軸のギャップ(開き具合)が大きい場合は、推奨度における重要度が高いのにも関わらず、顧客の期待に応えられていない、つまり「改善効果が高い」体験となります。
このECサイトの例では、「割引のお得感」は顧客にとって重要度が高い体験ですが、現状のロイヤルティスコアとのギャップはほぼなく、期待に応えられていることがわかります。
一方で、「商品の見つけやすさ」「商品画像の多さ」「会員登録のしやすさ」は、改善効果が高く、優先的に解決すべき課題と言えます。
カスタマージャーニーマップの作成方法については、以下の記事でも解説していますので、ぜひご覧ください。
関連記事:
カスタマージャーニーマップとは?作り方を紹介! | 株式会社エモーションテック
定性分析の具体的な手法
定量的な数値データの分析をご紹介してきましたが、数値にできない顧客データの分析も重要です。
ここでは、NPS調査における定性データの主な分析方法として、フリーコメント設問の分析をいくつかご紹介します。
共起ネットワーク(テキストマイニング)
共起ネットワークは、テキストマイニングとも呼ばれ、文章に含まれる単語同士の繋がりを図で表現する手法です。
フリーコメントを品詞別に分解して、単語ごとの共起関係の強さをマッピングします。
出現数が多い単語ほど「ノード」と呼ばれる丸が大きく、共起の程度が強いほど「エッジ」と呼ばれる線が太く描かれます。
例えば、「WEBサイトの検索機能」に対して調査を行ったとします。
「レコメンド機能が使いやすい」という回答が多かった場合では「レコメンド」と「使いやすい」の結びつきが強く出ます。
このことから、レコメンド機能について高い評価を得ていることがわかります。
フリーコメントを全て目視で確認するのは大変な作業です。
テキストマイニングの図を見れば「レコメンド」と記載のあるコメントをピックアップして確認することができるため、定性的な評価についての確認がしやすくなります。
また、テキストマイニングツールを利用することで、プログラミングをしなくても簡単に行うことができます。
関連記事:
テキストマイニングとは?生成AIによる進化についても解説
ポジティブ・ネガティブ分析
フリーテキストの分析でよく行われるのが、「ポジティブ・ネガティブ分析」です。
ポジティブ・ネガティブ分析とは、フリーコメントのテキストの文章から、顧客がどのような感情を抱いているのかを分析します。
具体的には、「ポジティブ」「ネガティブ」「中立」に分類して、推奨度別に評価を集計することで、フリーコメントの傾向を把握できます。
例えば、店舗の顧客体験について調査していたとします。
「接客」「清潔さ」「メニューの豊富さ」「料理の美味しさ」「アクセス」など、それぞれのトピックに対して、ポジティブな声とネガティブな声がそれぞれいくつあるのかを集計します。
「接客」に対してネガティブな声が多かった場合は、どのようなコメントが集まっているのか具体的に確認し、改善策を考えることができます。
ただし、大量のテキストデータに対し、手動で分類作業を行うのは非常に大変な作業である上に、膨大な時間がかかります。
AIを活用した「TopicScan」では、膨大なテキストツールのポジティブ・ネガティブ分析を、学習データに基づいて短時間で行うことが可能です。
フリーコメントや口コミなど「顧客の声(VoC)」の定性的な分析を手軽に行いたい方はぜひご相談ください。
▶️フリーコメントを簡単に分析する「TopicScan」について見てみる
頻出語分析
頻出語分析は、文章に対し、どのような言葉が多く出現しているかを集計し、顧客の注目しているポイントを探る分析方法です。
具体的には、フリーコメントの中で「キャンペーン」「企画」「店舗」など、いくつかの言葉を抜粋して、それぞれに対し何個コメントがあるかの合計数を算出します。
「新商品」という言葉が頻出しているのであれば、「新商品」に対して顧客が多くの感想を抱いていることがわかります。
「新商品」という言葉が使われているコメントを抜粋すると、どの新商品にどのような評価が集まっているのかが確認できます。
ロイヤルティの違いによって頻出している単語の違いを比較するには、「推奨者」「中立者」「批判者」ごとに頻出語の合計数を計算します。
また「購買頻度」や「購入金額」など、収益指標ごとにどのような言葉が頻出しているのかを比較することもあります。
この頻出語分析は、excelでも集計が可能であるため、フリーテキストの分析方法としてよく活用されています。
NPS調査における分析のポイント
NPS調査における分析のポイントは、最適な分析方法を選び、定量分析と定性分析をうまく掛け合わせることです。
定量分析は、大まかな傾向の把握に適しており、「調査したい顧客体験がどの程度NPSに影響しているのか」や「収益指標とNPSがどの程度関係しているのか」などを調査したい場合に活用されます。
一方、定性分析では、「アンケート設問に加えた内容以上のデータの計測」や「実際の顧客の声」の調査に向いています。調査を設計した際に想定していなかったユーザーの感想や要望を知ることができるため、定量分析ではカバーできない内容を把握することができます。
これらの特徴をおさえ、知りたい内容について網羅できる分析方法を選択することが重要です。
NPSを分析したら次は何をする?分析後のアクションとは
分析したデータは、どのようにCX改善施策に活かせば良いのでしょうか?
この章では分析後のアクションについて紹介します。
優先的な課題をあぶり出す
NPS調査の分析から得られた示唆をもとに「優先課題」を見つけましょう。
4象限分析やカスタマージャーニーマップ分析で「WEBサイトの使いやすさ」に改善の余地があることがわかった場合は、更に課題を深掘りしてみましょう。
「WEBサイトの使いやすさ」には「文字のサイズが見えやすいかどうか」や「サービスページまでの導線がわかりやすいかどうか」など、たくさんの要素が含まれています。
フリーコメントなどの分析結果から、特にどの要素に対し、顧客からフィードバックをもらっているのかを調べ、改善点として優先順位をつけていくと良いでしょう。
得られた仮説をもとに次の調査で検証
分析をすることにより得られた仮説は、次の調査の設問設計に加え、検証しましょう。
例えば、選択肢に用意していなかった「サポートデスクの対応」についての内容がフリーコメントの回答で得られたとします。
他の顧客も同じく「サポートデスクの対応」に注目して評価をしている可能性があれば、次の調査で選択肢に加えてみても良いかもしれません。
また、必要に応じて深掘りの調査も行いましょう。
今回は定性調査の項目でご紹介しませんでしたが、「ユーザーインタビュー」という調査手法があります。
NPS調査の仮説検証や深掘りのためにユーザーに対し、1対1のインタビューを行うことがあります。
このように、調査内容をブラッシュアップしながら定常的に調査を行うことが大事です。
現場へ適切なフィードバックを行う
日々CX改善に取り組む現場に向けて、NPS調査や改善施策に対して、重要性を感じてもらうことも重要です。
ネガティブな声だけでなく、ポジティブな声もフィードバックをすることで、NPSに対する現場の印象も変わり、CXを改善するサイクルが浸透します。
現場目線に立ち、NPS調査によって得られた結果を元に、次のアクションを議論できるような報告内容を心がけましょう。
共有機能がついているサーベイツールを活用すると、各部署へ分析結果をスムーズに共有することが可能です。
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いかがでしたでしょうか。
NPS調査のデータを最大限に活かすために重要なことは、以下の2点です。
- 定量分析と定性分析を組み合わせること
- 知りたい目的やデータの種類に沿って分析方法を選ぶこと
NPS調査における代表的な分析方法をいくつかご紹介してきましたが、本記事で紹介した他にもまだ多くの分析方法があります。
本記事が、NPS調査を活かす分析方法について理解を深める機会となれば幸いです。
NPSの調査方法については、具体的な手順や目的を以下の記事に記載していますので、こちらも併せてご覧ください。
関連記事:
NPSの効果的な調査方法とは?調査票の作成方法や調査設計のコツを解説
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システム上で重回帰分析や相関分析を活用した分析をすることができ、顧客ロイヤルティを正確に把握することができます。
特許を取得している「カスタマージャーニーマップ」を活用した独自の分析により、改善ポイントを見える化します。
- アンケートの作成(設問テンプレートあり)
- データの分析
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など、NPS調査に必要な機能が揃っており、すぐにNPSの計測を開始することができます。
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